200話
(いつもはコーヒーや……紅茶ばかりですが、たまには)
そう、誰かに言い訳をしながらユリアーネは早起きしてショコラ・ショーを作る。レシピは簡単、砕いたショコラと温めたミルクを混ぜ合わせるだけ。カカオ含有量の多いショコラを使うほどに滑らかで濃厚になる。が、そのあたりは好みで。
それ以外にもジェイドからは『弱火で、沸騰させないこと』『撹拌させて空気を含むように』という二点を守れば専門店のような味になる。かもしれないとのこと。お店はスパイスや生クリームなどでもう少し複雑な味になっているところも多い。
隣の部屋ではまだアニーが寝ている。ドイツではいつもどちらかの部屋で寝る時は同じベッドだった。その時はかなり向こうは早く起きている。初めて先に起きたかもしれない。あまり物音を立てないように優しく行動。ダークショコラはもらった。
「なんだか……至れり尽くせりで、非常に申し訳ない気持ちがありますね」
それぞれの部屋にキッチンがある。コの字型に配置され、収納も多い。自分の住んでいるところよりもいいのでは、と頭をよぎる。背後を振り返ると、まだ暗く窓の外はよく見えない。自分の未来のようで少しだけ緊張。見知らぬ土地ということもある。
そうこうしているうちに完成。コーヒーカップに注ぎ、その場でひと口。美味しい。ビターすぎず甘すぎず。ちょっとビター。針の穴を通すような精度で好みにハマっているような気がする。あまり飲んだことがないので、詳しくはわからないけど。
「『愛』……」
問われたことを思い出す。そもそもがドイツにおいて、バレンタインはそんなに盛り上がるイベントでもない。男性が女性に花を渡す、程度。やらない人も多い。国によっては、女性が男性にショコラーデを贈りながら告白をする日、だとか。男性が返す日もあるという。
ふと。寝ているアニーを想う。彼女はそういったことを重要視するのだろうか。そんな曖昧で。形のない。気分次第でどうとでも変化してしまう。そんな感情を。だが、自分が彼女に抱いている感情はなんなんだろう。そんな、全て否定してしまいかねない危険な焦燥感。
愛と言われても、これが本当に愛なのかわからないけど。愛と言っていいのなら。この想いを愛と呼ぶべきものなら。この気持ちをショコラーデにする。少しだけ、役に立てるかもしれない。
「……おはようございます、早いっスね、ユリアーネさん」
そうこうしているうちに、寝ぼけた状態でアニーが起きてきた。ドイツの学校は昼過ぎに終わるが、朝も早くから始まる。冬などは太陽が昇る前の、暗い時間から始まるところも多い。キッチンのライトで眩しい。自身も紅茶を飲もうとお湯を沸かす。




