197話
モンフェルナ学園、学生寮。学園の敷地内に存在し、多数の生徒が利用する。姉妹校のICカードであれば相互に利用できる。らしいというのはユリアーネも初めて知った。そして場所はジェイドの部屋。入り口で靴を脱ぎ、ショーソンというスリッパを拝借。
「なるほど……いや、まだ完全には理解できていませんが、そんなことが……」
音をショコラに。確かにそれなら他と被らない新作が作れる。本当に存在するのか。しかもカルトナージュありきという唯一無二のもの。二段ベッドの下に腰掛けながら、取り組んでいることについて聞かされた。
基本的には二人部屋。ゆえに二段ベッド。だが現在はひとりで使わせてもらっている。その上段に制服のまま寝そべりながらジェイドは返答。
「もっと腕や名を上げたいんでね。そのために誰も作っていないものを作りたい。ということで、なにか浮かぶものがあればドシドシ教えてほしい。『愛』とかね」
目を瞑り、今日一日を振り返る。疲れた。心地良い疲れ。そして可愛らしい少女にも会えた。満足して眠れそう。夢ではルレ・デセールに入会していますように。
ユリアーネは少々嘘をついている。というのも、彼女はカフェの店員ではなく、本当はオーナーという位置にいる。なんとなく、その事実は隠してみる。言ってもいいのかもしれないが、ただなんとなく。
「しかし同じような境遇ですね。私も店の新作を考えていまして。なにかお力になれればいいのですが」
カフェ文化の勉強も兼ねてパリへ来ている。ただ『愛』というものの力にはなれないかもしれない。自分の皮膚が感じる愛は……友情に近い愛。
ベルリンでカフェ。ジェイドには気になるところも多いが、勢いよく起き上がり下を覗き込む。
「次のテーマは『愛』。バレンタインも近いからね。花で表現するとこうなるらしい」
そう言って携帯の画面を見せる。相棒から届いた、少年の愛。美しいが同時に苦味も感じるアレンジメント。ほら。あの子はなんだかんだで力になってくれる。
受け取り、まじまじと確認するユリアーネ。そこにはシックでありながらも惹きつけられる、優しい気持ちが溢れる花々。追記で送られてきている花の情報。そちらを読むと、より深く染み渡る。羨ましいな、と嫉妬するほどに。
「すごい……ですね。きっと、送られた方は、大切に思われているのでしょう」
「ちなみに。アレンジメントをしたのは初等部の子供。家が花屋らしいけど。いやはや脱帽だね」
花については素人のジェイド。それでも、画面越しでも伝わる誠実な恋心。ケンカしたり。仲直りしたり。そうして深まっていく絆のような。自分には……そういうのはなかったかも。




