表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
レディー・ガガ
194/317

194話

「……」


 受け取った? ことになっているベルは、目線が落ち着かずアレンジメントを見たり天井を見たりと無言。素敵だな、と率直に。自分の……ために。


 ……ちょっと待て、とひとりオードは冷静に物事を処理する。依頼したのは自分。ならお金を出すのも自分。しかし……これは自分が受け取るものでは……ない。


「あー……二人とも。あたしも悪いけど、一応あたしのもの、だからね……とは言っても」


 そう言い切ると、バスケットごと手にし、それを恋する少女に近づける。


 そこでベルと目が合う。少し涙目。


「……オード?」


「これはちょっと早いけど誕生日プレゼント。まぁ、当日は他にもなにか用意しておくけど」


 と、オードは譲り渡す。受け取れるかっての。


 そこにすかさず入り込むのはシャルル。流石にそれは申し訳なさすぎる。


「あ、す、すみません……他に、なにかお作りします、少々お待ちくださ——」


「大丈夫大丈夫。キミのお父さんからもらってるから。それでチャラってことで」


 よく考えたらあの時は支払っていない。『オードリー・ヘプバーン』をイメージしたアレンジメント。父から受けた恩は子に返す。そう言えばあいつが『恩送り』とか言ってた。


 唐突な父、リオネルの登場にシャルルは戸惑いを隠せない。


「リオネル……さん? え、それ……は……?」


 うん? 思い当たる節はない。一体いつ?


 そして蚊帳の外にいるベルはなにが起きているのかさっぱり、といった雰囲気。キョロキョロとあたりを見回すのみ。


「えと……オード、ありがとう、でいいのか……な?」


 自信はないが、とりあえずくれるそうなので感謝。たしかに少し早いが、このアレンジメントはぜひ欲しい。


 手をパンッ! と大きく叩いて、納得のいったオードはここらでお開きとする。


「はいはい、いいもの見せてもらった。参考にもなる。あ、写真だけ撮らせて。あと詳しい説明もメモかなにかもらえたら。それとベル。早いけど誕生日おめでと」


 一応、あいつが変なこと言ったからここに来たわけで。そのおかげで楽しめた。から、念のため収穫を共有しときたい。


 ひとまずはこれで滞りなく。自分というものを出し尽くしてしまったシャルルは、呆けているのを戒める。


「あ、はい。すぐに、作りますね……」


 花の紹介はメッセージカードにしたためるために、再度花を思いやるが、すっきりとしない。本当にこれでいいのか、という悩みや恥ずかしさであったり。愛情表現が誇張気味なフランス人には珍しいかもしれない。


 その間、しばらくベルはじっとアレンジメントを眺めていたり、せっかくなので持ち帰り用に包んでみたり。まだ落ち着かない。ひとつひとつの花を見ていると頬が緩んでくる。


「にひひ」


 声が漏れる。生花だから一生は飾れないけど、自分でも同じものを作ってみようか。


「……実はかなり成果があったのかね」


 携帯で撮影した写真を、イスに座ってじっくりと味わうオード。チョコレートコスモス。つまりショコラ。偶然? それともやはりショコラには愛を伝える力が宿っている? わからない。まぁ、それはあいつが考えること。自分はカルトナージュ。


 自慢げにベルが、包み終わったアレンジメントをオードに寄せる。


「ね? 素敵でしょ?」


 私の好きな人。その言葉は宙を舞って霧散する。どこかに店主がいるような気がして。


 その笑顔を見ると、オードも認めざるを得ない。


「ほんとにね」


 ショコラ。花。可能性は無限だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ