192話
その姿を見ていると、つられていたベルの心臓も速度が戻る。その動きに。指先に。真摯さのようなものが感じられて。
「シャルルくん……」
自然と。名前を呼ぶ。
正直、そういう経験が少ない上に期間も短いシャルルには、大きく華やかなイメージが浮かんでこない。もっとこじんまりとしていて、密やかな。
「……」
となると、ある程度は限られる。目安はできた。だが、本当に自分自身を投影できているか。頭をフラットにし、流れに身を任せる。手に取る花。
南アフリカの常緑低木『リューカデンドロン パープルヘイズ』。茎から、細く先の丸い葉が渦を巻くように生えており、その茎の先端には『苞葉』と呼ばれる丸く重なる葉。ほんの少し紫がかっている。花言葉は『閉じた心を開いて』。
南米原産、常緑多年草『アンスリウム アラモン』。ハートのような形をした葉『仏炎苞』を持つ、濃く暗い赤色の花。花言葉は『恋に悶える心』。
マダガスカル島原産の単子葉植物『アングレカム セスキペダレ』。クリスマスのラン、とも呼ばれる白い花の基部から伸びる袋状の『距』が異常に細長い着生ラン。花言葉は『祈り』。
その他、ナッツやユーカリなどをバランスよく。そして花器には小さめの四角いバスケット。
「お、決まったみたいだね」
迷いなく選ぶシャルルの姿から察したオード。背筋が伸びる。思ったよりも早い。
頭が真っ白、というよりかはクリア。自然とイメージしたものが当てはまった。そして最後のピースを選び取り、シャルルは全てテーブルに広げた。
アレンジメントの中心となるその花。それに気づいたベルは感嘆する。
「これ、って……」
「……はい」
思わずシャルルも赤面。この花の意味。
「ちょっとちょっと。なんなの二人だけわかって」
置いてけぼりにされて面白くないオード。唇を尖らせる。顔を両方見比べるが、会話が成功しているらしい。
慌ててシャルルがアレンジメントを作成し始める。
「いや、あの……はい」
しどろもどろになりながらも、バスケットの形に吸水させたフローラルフォームをカットする。そしてセロハンを巻き、水漏れのないようにしてから、こちらもカットして見えないようにする。下準備は完了。
「あとは挿すだけ? それにしても……」
まじまじと花を凝視ながらオードが唸る。色味が薄い。カラフルなものをイメージしていたが、随分とシックにまとめたな、という印象。
そのアレンジメントに込められた意味をなんとなく受け取り、ベルはもじもじと身悶える。
「……」
でもまだ終わりじゃない。そんな感触。そしてまた恥ずかしいような。嬉しいような。




