190話
最初の勢いはなりを顰めたが、気持ちをぎゅっと凝縮してベルはまとめる。
「今、なにしているんだろう、って気になるというか」
夜。ベッドに入ったあと。もう眠っているのだろうか、とか。このピアノの音が聞こえているだろうか、とか。知ったところでどうにもならないけど。考えることが楽しいし嬉しい。
今? オードは店奥の小キッチンのようなところで奮闘するシャルルを見据える。
「コーヒー淹れてたじゃん」
「そういうのじゃなくて」
そうなんだけども。だけどそういった言葉にできないような想いが、愛や恋なのではないか、とベルはたどり着いた。
ところでここは花屋。言葉であーだこーだやるよりも、店内を見回しながらオードは提案する。
「じゃあさ、シャルルくんに『恋』をテーマにアレンジメントしてもらうか」
若い子の恋。向こう側の気持ちも。
心臓を鷲掴みにされたように緊張が走るベル。体が小刻みに震える。
「ちょ、ちょっとなんで巻き込むの! 変な勘繰りされちゃう!」
ヒソヒソと耳打ち。ただでさえ勘のいい店主の姉が彼にはいる。バレたらどんな扱いを受けるかわからない。
だが、花というものの力。それを何度か体験したオードは、興味があるのも事実。
「だってベルより上なんでしょ? アレンジメントの実力。じゃ、やってもらおう」
思い出してコーヒーをいただく。あ、美味い。雑味がちょうどいい。花も期待できそう。
「そんなこと言っても……」
とベルもやんわり拒否はしたものの、気にならないといえば嘘。自分のことをどう思っているのか。花でなら伝えてくれるかも。
よし。決めたら行動。ずっとこうしてるのも悪いし、お金はおとさなきゃ。オードは声を上げて呼び出す。
「シャルルくん、ちょっと」
「はい?」
シンクの清掃などを終え、レジでアレンジメントに取りかかろうとしていたシャルル・ブーケは、てくてくと歩いてテーブルへ。
「お茶菓子も食べますか?」
気の利いたおもてなし。昨晩作ったシブーストがある。まだまだお店のような完成度には及ばないが、中々上手くいったと自負。食べてもらいたい。
うーん……弟にしたい。雑用とか全部やってくれそう。そんな淡い期待を持ちつつ、オードはやっとお客らしい注文。
「『恋』をイメージした花、どんなのをアレンジメントできる?」
そして意地悪に二人を見比べる。悪そうな笑みもつけて。
ギョっと目を見開いたシャルル。ベルと視線が合うが、お互いに俯く。わかりやすく頬が染まる。
「恋……恋、というか僕ですか? ベル先輩に——」
「いや、キミがいい。キミがどんなものを作るのか気になる」
突き刺さるようなオードの眼力。一度獲物を決めたら逃がさない。




