19話
うんうん、とレダは頷き、蓋を閉じた。そして拍手。手伝ってくれたジェイドに感謝する。
「ピアノは問題ない。ありがとう!」
ホールの響きに合わせた調律。約一・八秒の残響。いいホールだ。軽さもレスポンスも問題ない。だが、それでも全員に合った調律はできない。その中でも、やれるだけのことはやった。
「お役に立てたんでしょうかね」
全然ダメだったような気もして、少し自虐気味にジェイドは呟いた。ただ邪魔をしてしまっただけなのかな。そんな思いはどうしてもまだある。
「もちろん。全然上手いじゃん。たまにはここに弾きに来なよ。別に音楽科専用じゃないんだし」
提案してみるレダだが、当のジェイドの顔つきは曇っている。
「どうですかね。やっぱり私は音楽は向いてない気がして。曲もあまり覚えていないし」
レダは後押しして褒めてくれているが、方やジェイドは満足できない。満足できないということは、悔しさもあるのだが、専攻の人々に混ざってやれる気はしない。
「でも、少しスッキリしたでしょ?」
それはたしかに。レダの言うことはジェイドの的を居ていた。スッキリして、モヤモヤしたものを吐き出して、頭にスペースができた。一理ある。
「たしかに、余計なこと考える暇なかったですね。たまにはいいかも」
前向きに検討したい。またもし、調律に来ることがあれば、その時までにもっと上手く、と自身に誓った。
「最近は、普通科でヴァイオリンをピアノ専攻の子と、一緒に弾いている子もいるって聞いているからね。別に空いてるか、予約すれば誰でも大丈夫だから」
と、レダはヴィオラを受け取りながら伝える。
結構内情に詳しいらしい。そんな子もいるのか、とジェイドは喫驚する。しかし、それは相当な腕なのだろう。でなければピアノ専攻の人と共演なんてできない。
「いや、さすがにそこまでは。こんな腕じゃ恥ずかしいですし」
と、やんわり断る。見られながら弾くなんて、今の自分では考えられなかった。もう少し、せめて淀みなく流暢に弾けるようになればあるいは、という考えも、ないことはない。
しかし、レダは人生の経験から、自身の見解を説いた。
「恥と思っているうちは、まだそれに無我夢中じゃない証拠だよ。まぁ、それをヴィオラに求めるのはさすがに酷だけど。ショコラティエールになるためには、どんどん恥をかくことが大事だと思う」
と、真っ直ぐジェイドの目を見て、優しく微笑んだ。気持ちはわかるけど、と語尾につけて同調する。
「恥……」
をかく。それはどちらかと言えば悪いことのような気がしていたジェイドは、緊張が走った。なぜ? レダの次の言葉を待つ。
続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。




