189話
ニッコリと笑顔。そそくさと下がっていくシャルル。「それでは」と自身の仕事に戻る。姉がいないメリットとデメリットはあるが、今はたぶんメリットが勝っている気がする。
「よくできた子だねぇ」
CM2くらい? とオードは予想をたてる。自分が同じくらいの年齢の時、あんな風に振る舞えたっけ? と思い返すがたぶん無理。というか今でも。同じ学年にもいなかっただろう。
同様にベルも笑顔を浮かべて、シャルルの去っていった方を見つめる。じーっと。
「ホントにね」
少々浮かれているように見えるくらいには。否、浮かれている。文字通りお花畑。
「……?」
なぜだろう。彼女の視線に熱を感じる、そうオードは違和感を抱いた。職場の同僚を見る目つきにしては……いやいや、年下も年下。そんなはずは——
「ぬふふふ」
変わらず、浮き足立っている様子のベル。ニヤけた顔が戻らない。頬が染まっている。
好きな人がいる、という情報。オードはひとつの結論を出す。
「……マジ?」
いやいやいやいや。そんなわけはない。子供。子供だし。いや、自分達も子供っちゃ子供だけど、あれはお子様。顔はまぁ……整ってるとは思うけど……。
そんな葛藤を目の前の相手がしているとも知らず、ベルはなぜか勝ち誇ったように宣言。
「……恋、いいもんだよ」
先輩面。まだ実っているわけでもないのに。
たしかに恋はしているのかもしれない。だが……参考になるのか……? という疑惑がオードに浮かぶ。
「……一応……聞いとくか……」
まぁ……恋愛に年の差は関係ないって言うし。そういうのもアリだろう。ないよりはマシ。ないよりのあり。なにを言っているあたし?
そのテンションの下がり具合をベルは敏感に察知する。
「あーッ! あんまり……信用してないでしょ……」
とはいえ、怒るでもなく悲しむでもなく。その気持ちもわかる。そのため、最後は勢いもなくなる。
別に人の自由だからとやかくは言わないが。オードとしてもなにか悪いことを頼んでしまったようで、気まずい空気が流れる。
「……ごめん」
「いや……謝らないで……」
その空気を作り出してしまったのは自分。ベルも気まずい。だが正直に言ってそうなのだから仕方ない。
数秒無言が続き、この状況を打破せねばとオードが沈黙を破る。
「……じゃ、とりあえず……どんな感じ?」
年下の子に恋焦がれる、少し危険な恋。それも参考になるかもしれない。需要はたぶん……ある。というか。なんであたしがあいつを手伝うような真似を。




