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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
オードリー・ヘプバーン
182/317

182話

 大きく息を吐きながらシシーは背もたれに寄りかかる。


「たまたまですよ。ハックルベリーには、似たようなもので『ガーデンハックルベリー』というものがありまして。とは言っても似ているのは見た目だけ。生物分類のリンネ式階層分類では、科まで違いますから。ただ、熟していない果実には毒があるんです。それで知っていただけですよ」


 そう、毒があったから。それだけ。


 なんだか背筋がゾクっとしたギャスパー。より追求する。


《……毒?》


「ソラニン、ありふれた毒です。珍しくもなんともない」


 主にトマトの苦味成分から分岐進化した結果の天然毒素。騒ぐほどの知識でもない、とシシーは軽く受け流す。


《そ、そうなの……?》


 まぁ、料理するとかなら詳しくてもおかしくはないか……? と、ギャスパーは嫌な思考を閉じた。それ以上は深入りしてはいけない気がして。


 話を平和的に変えるシシー。色眼鏡をかけずに見れば、ただのケーキ。


「たしかに美味しそうですね。どこかで食べられるんですか? パリでは」


 ベルリンでは食べたことはない。推理していたら食べたくなってきた。


 そういえば予定を聞いていないことをギャスパーは思い出す。下手なことは言えないので、とりあえず否定。


《いや、まだ正式には決まっていないけど……パリに来る予定が?》


 ドキっとする。まるでゴジラでも上陸するかのような。圧倒的なプレッシャーを持つ生命体。それがここ、パリに?


 画面越しでは見えないが、ニッコリとよそ行きの仮面を装着するシシー。隠せる思惑は腹の底へ。


「近々、視察のような感じで一週間ほど、そちらのモンフェルナ学園に。その時に時間でもあれば、と考えています」


 そう。ただの旅行。パリへ。学院のお金で。問題はないでしょう?


 多めの瞬き。意を決してギャスパーは歓迎する。


《そっか。なら、もしかしたら売っていなくても食べられるかもしれない。なんせ、このケーキを作ったのはまさにその学園に通っているからね》


 あとのことは生徒達に任せよう。自分は逃げる。なんでか、映画『プレデター』が頭をよぎったから。


 天使と悪魔。それらを食べられるかもしれない。シシーも胸が高鳴る。


「それはそれは。楽しみが増えました。たしかお孫さんも通われているとのことで。ぜひ、お会いできれば」


 彼女と。俺は——。


 含みのある言い方に、疑いの眼差しをギャスパーは向ける。怪しい。


「……なにか考えてる?」


 まるで人質でも取られたかのような。そんな冷や汗。


 なんのことやら? とシシーはあくまで楽観的に振る舞う。


「いえ? ただ——」


「ただ?」


 やはりなにか悪いことを考えているときの口調。ギャスパーにはわかる。自分もそうだから。同じ穴のムジナ。


 目を閉じたシシーは、邪気を払うように再度笑む。


「……ただ、お友達になれたらと思いまして」


 彼女はきっと。俺を必要とする。そんな、ただの予感。

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