178話
とあるカフェ。テーブルはラウンドもスクエアもあり、白塗りのやナチュラルなもの。こぢんまりとした普通のカフェ空間ではあるが、壁に足場のようなもの。タワーのようなもの。ホイールのようなもの。まるでなにかの遊び場のようなアトラクションが多数見受けられる。
足元で「ミャオ」と鳴き声。
「エンゼルケーキとデビルズケーキ。おそらくオードリー・ヘプバーンの『ムーン・リバー』というところだろう」
テーブルの下から聞こえた声には反応せず、ただ携帯の画面に写っている画像を見て少女は確信した。猫足のついたアイスのカップ。色は白黒。ここから導き出される、この作品のテーマは前述の通り。少女の名前はシシー・リーフェンシュタールという。
自身の携帯。再度見直す。相対する席についている高齢の男性、マティアスも同じ意見。膝の上の茶色い生き物を撫でた。
「だろうね。中にはひと口大になったそれらが入っているはず。で、どう? 合ってる?」
《……まだカップを見せただけなんだけど》
スピーカーで会話。その電波の先には、パリに滞在する調香師ギャスパー・タルマ。今度こそこのドイツ人師弟に「わからない」と言わせるために、前回同様なにをテーマにしたショコラか、推理してもらう予定だった。が、容器だけでもう終わる。
二人がいるのはベルリンにある猫カフェ。とはいえ、ドイツでは動物をメインにしたカフェというものは非常に許可が取りづらい。ゆえに、店側としては「たまたま」猫がカフェにいる、と通している。野良猫というものがヨーロッパ全体を通して少ないため、こういったコンセプトのカフェはそれなりに繁盛している。
声だけではあるが、世界的に有名な調香師との邂逅。シシーは慇懃に挨拶。
「はじめまして、ヘル・ギャスパー。楽しいクイズを毎度どうも」
前回はショコラの浸した角砂糖。そこから読み取れる歴史上の人物、そして桜のショコラから連想できるこれまた歴史上の人物。
もちろん、ギャスパーとしてはつまらない。ひと飛びでゴールに着地。自分だったら一切その答えが浮かばない。
《……の割にはあっさり解いちゃってるけど……やぁ、フラウ・シシー。解説をもらっていい? 実は私もまだ詳細は知らなくてね。一緒に考察していきたくて》
もうこの二人に、一般人に対するようなリアクションを求めるのはやめよう。たぶんアインシュタインとかニュートンとかと同じ時代に生きていた人々は、こんな感じで彼らを見ていたんだろうな、という共感。一応話せるドイツ語で。




