177話
チラッと上目でサロメは作り手を確認する。両手に乗っかったカップ。これだけではわからない。候補がありすぎる。
「まだ。ある程度は絞れてきているけど。てことで、開けるわよ」
悔しさはあまりない。ヒントが少なすぎるから。だが、『猫』というのが気になる。確実に物語に影響を与えたもの。『魔女の宅急便』『ギフテッド』『ガーフィールド』、いくらでもある。考えてもわからない。なら、食う。
許可を出すジェイド。はたして答えが出るだろうか。
「どうぞ。めしあがれ」
この瞬間は緊張する。誰かに見せるということは、誰かに自分の中身を見られるような。どんなことを考えて作ったか。その他色々と。
開ける前にもう一度熟考するサロメだが、やはり答えは出ず。降参気味にオープン。
「……これは、二種類の……ケーキ?」
中には袋に入った、こちらも白と黒のケーキ。それが小さくひと口サイズに切ってある。とことん白黒にこだわる。ということは昔の映画? いや、たぶん違う。グラス……グラス……。
自信はある。味も。だがショコラは考えるよりも食べるもの。ジェイドが促す。
「さて、なんのケーキでしょうか? これがわかれば答えに近づく。食べてみて」
オードも美味しいと言ってくれた。そう、これはアメリカの表と裏。オードリー・ヘプバーンの白と黒。
不本意ながらも、サロメは袋を開封。ショコラを前にしてこんな気持ちは初めてだった。付属のピックでそれぞれひとつずつ口に運ぶ。
「白いのは粉糖、黒いほうはアプリコットジャム……」
甘すぎず、重すぎず。美味い。思わず手が出るタイプの軽いケーキ。それに、少し風味に特徴。
その反応にジェイドも解説を挟む。
「気づいた? ベリーが入っていることに」
白も黒にもほのかなベリー感。だが、それだけでは説明がつかない部分がサロメにはある。
「白と黒でそれぞれ使用している……いや、ベリーの種類が……違う?」
「その通り。よくわかったね。すごいよ」
その微妙な違いに気づいたことに、ジェイドは舌を巻いた。それはほんのわずかな違いだが、それでも手を抜かず、合うと思ったものを厳選した。食の都パリ。なんでも揃えることはできる。
痺れを切らしたサロメが問い詰める。
「で? このケーキはなんなの?」
目にしたことが、聞いたことがあるようなないような。なんだったか、相反する名前だったような。
ニヤッと笑みを浮かべてなぜかジェイドは勝ち誇る。
「このケーキはアメリカで生まれたんだ。その名も——」




