173話
だが、そのやり方はオードには不評。なかなかたどり着けずジリジリとストレスとして蓄積していく。
《……まわりくどい。つまりどういうこと?》
どんな違いがあったか思い出せない。なんか合唱隊みたいのが歌っていたような。
ジェイドとしては、一番有名なギター片手に、のシーンは取り扱わないことにした。それよりも心情が見え隠れするのは最初と最後。
「テーマとしたのは対比。同じ曲でも全く違うってことさ」
《…………なるほど……いややっぱ全然わかんないわ》
数秒間使って思考したがオードはギブアップ。お手上げ。降参。
そして本題とは少しズレるが、ジェイドはあることを提案。
「それと、今回は最初に食べてもらいたい人がいてね。お店に持っていくよりも先にそちらに持っていきたい」
お詫びも兼ねて。色々と迷惑もかけてしまったし。
自分としてはもう、他にできることはないので、オードとしては任せるしかない。了承する。
《まぁ、いいけど。自信はあんの? また見本とかそういうのはアレよ、勘弁》
すでに二度の前科あり。少しずつこうやって信頼は失われる。いや、最初からそんなには信じてないけど。
だが、ショコラというものの捉え方が、クロエのおかげで変化してきているジェイド。焦りも緊張もない。
「さぁ? どうだろうね。なれたらいいし、なれないならそれはそれで仕方ない。また頑張るよ」
全ては運、と割り切る。なら、自分にできることをやるだけ。結果は神様の気分で。
思っていたものと違うリアクションに、オードは戸惑いを隠せない。
《……なんか調子狂うわね。どういう風の吹き回し?》
根拠のない自信は、ある意味でこいつの取り柄だったのに。まぁ、変に気負っていないのは、それはそれでいいか。
「いや、まだまだ知らないことだらけだってことがわかったからね。『スマイル』だってあれで終わりじゃない。改良点が今後出てくるだろうし」
ショコラは日進月歩。明日になったら、今日の常識が壊れているかもしれない。そんな達観した目でジェイドは冷静に取り組むのみ。
完全に毒気を抜かれたオードは、眠気が勝ってきた。
《なんでもいいわ。あたしは店先に飾れるようなものの依頼さえくれば。じゃ、営業のほうは頼むわ》
小さく発生した欠伸。そのまま電話を切る。ま、自分にできることはもうないし。あとでどんなショコラだったかだけ、聞いとこう。
暗い室内に灯る液晶画面。その画面を消し、ジェイドは目を閉じた。
「さてさて。お口にあえばいいけど」
そして電話を違うところへかける。まだいるだろうか。いないならまた日を改めて。と、策を練っていたら出た。
「あぁ、どうも。ジェイド・カスターニュです。先日はどうも。明日とかって彼女います? ……あの子ですよ、ほら。サロメ・トトゥ」




