168話
その告白にジェイドは目を剥いた。
「え、チャップリンを……ですか? でも売るのは——」
「はい、売るつもりはありません。身内で食べるためにです」
安心してください、とクロエは落ち着ける。財団のこともすでに把握済み。
少しやる気の戻ってきたワンディ。身を起こしてニヤリと笑う。
「へぇ、いいね。ライバル心剥き出しだ。私とキーラみたい。というのも私と彼女は——」
「どうでもいいです。お二人ぶん作ってきましたので、どうぞ」
いらぬ知識は最初からお断りするクロエ。というかもう酔った彼女から七回は聞いたこと。
受け取ったジェイドは真上、横から余すところなく観察してみる。結論。
「小さなハットボックス……に、ボウタイのようなリボン」
つまり名前が出ていた通り、これは彼の特徴を表しているわけで。
「すでにチャップリンぽい。いいね」
するりとワンディも参戦。若い者のアイディアを楽しむ準備はできた。
ゴクリ、と唾を飲み込むジェイド。なんとなく緊張する。自分のショコラに自信はある。だがなんとなく、このショコラもすごいものという予感。
「では開けます」
ハットの部分を上に持ち上げると、中には袋に入った板状の、つまりタブレットショコラ。ほんのりと優しい褐色。
「……これは……」
先に声を上げたのは以外にもワンディ。タブレット。が、割れている。もちろん、持ってくる際に割れてしまったわけではない。ジェイドのものも同様になっている。
そして詳細をクロエの口から。
「ミルクショコラです。マルトーで割った形にしました」
マルトーとは金槌。出来上がったタブレットを、あえて不均等に割って袋詰めしたもの。それが彼女にとってのチャップリン。
頭がついていかない。美味しそうなショコラをあえて割る。ジェイドの頭には疑問符。
「マルトー? なぜ——」
と、ここで今日初めてワンディに目線で話題を振る。酒癖の悪い、適当で行き当たりばったりで、他人の迷惑など気にしない無責任な彼女に。いや、ちょっと言いすぎたか。
テーブルをトントン、と軽く指先で叩き、考えをまとめるワンディ。ミルクショコラ。マルトー。そしてチャップリン。なるほど。
「そういうこと。まるでブロンデルね。そしてブロンデルといえば——」
「スイスです。ミルクショコラといえばここ。そしてコンチングの生まれた場所」
推理で大体は読まれてしまったが、先を継ぐのは作り手のクロエ。




