163話
大御所大女優二名。これをどう表現するのか。勉強になる、かもしれない。いや、花はやらないけど。カルトナージュとかになにか生かせるものがあれば。
すでに決まっているリオネル。またもキーパーから数本の花を取り寄せる。
「ここに最後に二種類の薔薇を投入。『マリリン・モンロー』と『オードリー・ヘプバーン』」
アプリコットピンクの一輪の薔薇。そして二輪の薄いピンク色の薔薇。それらをテーブルの上に置く。
なんのことか、と呆気に取られるオード。が、すぐに気づく。
「彼女達の名前の……薔薇?」
そうとしか思えない状況。名を呼びながら広げた。そんなものまであるの?
手際よくフローラルフォームに挿し、微調整をするリオネル。追加でフェンネルなども。スポンジ部がどこからも見えないように隠す。
「というか、薔薇には結構俳優の名前の入ったものがあってね。『イングリッド・バーグマン』とか『エリザベス・テイラー』とか。偶然、その両方とも店にあるよ」
俳優ってそこまでなるのか……と驚嘆しつつ、オードは花に見入る。薔薇が追加されたことで、一気に華やかに。先ほどまでの素朴な色合いもあれはあれでアリだが、やはり主役は遅れて来るもの。こっちのほうが好き。
「さすが華のある二人。完成度……っていうのかな、素人目線ですけど、引き締まったというか。紙コップも、なんか味があるように見えてきました」
そして、それを即座に作り出したこの人物。疑っていたけど、これがM.O.F。フローリストならみんな、というわけではないだろう。
完成したアレンジメントを一歩、リオネルはオードに近づけた。
「演じることのなかったマリリン・モンローを控えめに。そしてオードリーを主役に。これで完成。簡単でしょ?」
花器からメインの花まで、ひとつも意味を漏らすことなく仕上げる。それぞれに役割があり、生かして作品として作り上げる。それがアレンジメント。それが〈Sonora〉の花の捉え方。
「……あんな一瞬で思いつきませんけど。たぶん。でも、ありがとうございます」
でも、って使い方合ってたのかな、と少しオードは悩む。それにしても、即興でピアノを演奏するように、映画の深い意味まで盛り込んで芸術とする。そこに達するまで、どれだけのイメージを、花で作り上げてきたのだろう。
満足してくれた、と勝手に解釈したリオネルは、最後、まとめにかかる。
「俺も最近は企業からの依頼ばっかりだったからね。楽しかったよ、やっぱりお客さんと話して作る花はいいね」
サロンなどからくる依頼も楽しい。大きく、それこそ自分ひとりでは作り上げることができないほどに巨大なものも、アシスタント達と力を合わせる達成感。だが、こうやって正面から向き合って、小さな花を作りあげるのも、また楽しい。原点に戻ったような。




