161話
それに押され、よし、と意気込んで立ち上がると、リオネルは一瞬立ちくらみ。数秒要して意識を戻した後、店内を見回した。
「……作中の彼女を表すもの。それとマリリン・モンロー。んでオードリー・ヘプバーン。これだけ素材があれば、簡単だけど作れるね」
アレンジメントは見えた。花もある。こんなもんかな、とイメトレは完成。じゃあ、やりましょう。
M.O.F様の発言を理解するのに数秒。要した後、オードの声は高くなる。
「——え、それだけで? もう、思いついたんですか?」
ちょっと自分にはない感性。フローリストってそういうもんなの? と驚嘆した。
少女の驚く顔が心地いいのか、したり顔でリオネルは準備に入る。
「この二人は花業界でも有名だからね。ちょっと待ってて、すぐにできるから」
と、レジ前にある透明なガラスの冷蔵庫、通称キーパーから花を取り出した。ちなみにキーパーはフランスではあまり置いてあるところはない。その内部の隅っこにグラスとシードルの瓶が置いてある。いい感じに冷えているようだ。
その姿を目で追いながら、オードは伝えられた事実をゆっくり消化していく。
「マリリン・モンローと……オードリー・ヘプバーンが……有名?」
わからん。別に花とか関係なく有名じゃないだろうか。むしろ、知らない人を探すほうが難しい。マリリン・モンローの『お熱いのがお好き』のポスターは、どの時代に生まれても一度は目にするし、オードリーのサングラス姿も同様。
テキパキと道具を揃え、テーブルに置くリオネル。その下では相変わらず猫が欠伸をして、オードに懐いている模様。
「使うものはフローラルフォームというスポンジ。それとブルーレースフラワー、フェンネル、オルレア。どこか穏やかな田舎の散歩道、って感じするでしょ? フラワーアレンジメントっていうと赤とかピンクとか、そういうカラフルなものも目を引くけど、緑の使い方が重要だね。これがないとバランスがよくない。あえて崩すのもあるけど」
広げた花々は、白と緑と薄青の、言ってしまえば『優しいけど少し地味』な色合い。だがどこかオードには安らかで、落ち着く色合いでもある。
「田舎……たしかにホリーはテキサスの田舎出身でしたけど」
映画とも絡めてみる。でもテキサスって砂漠にサボテン、カウボーイというイメージがないでもない。こんな花もまぁ、探せば全然あるんだろうけど。なにを伝えたい?
そのうちのひとつ、白いレースを編んだような繊細な花を手に取るリオネル。
「それに、このオルレアという花はホワイトレースとも言われていてね。手芸をやっているから知っていると思うけど——」




