160話
二転三転する物事に、振り回されるオードはすでに疲弊してきた。
「……結局やるんですか」
最初の緊張はとっく消え失せ、なんとなく、ジェイドと話している時のような適当さを感じる。
ニヤリ、と悪い笑みをリオネルは浮かべ、気合を入れる。
「よし、やるよ。そのためにわざわざ来てくれたんだろうからね。やれるだけのことはやる。気に入ってもらえなくても知らん」
とりあえず思いついたことを、自分なりに遊ぶだけ。
「じゃあ、どんな風に仕上げますか?」
なんかもう、さっさととりあえず聞くだけ聞いて帰ろうかという考えに至ってきたオード。とりあえず急かしてみる。
だが、集中しだしたリオネルの完成図は、偶然にも核心へと迫る鋭さを持っていた。
「そうだね。オードリー・ヘプバーンといえば、ってところから考える。『ローマの休日』『麗しのサブリナ』『マイ・フェア・レディ』なんか色々あるけど、やっぱり『ティファニーで朝食を』。これなんか作りやすいかもね」
ドクン、とオードの心臓が脈打つ。背筋に冷たいものが走る。いや……まさか。猫、ってのも関係してる? 一瞬で近づいたことに鳥肌が立つ。
「……どういったところで、ですか?」
浅く呼吸を繰り返して平静を取り戻した。うん、変じゃない、はず。いや、なんで隠そうとするの、自分?
選ぶ花を脳内でシュミレートしながら、会話も円滑に。あらかた決まったリオネルはイスから立ち上がった。一度、屈んで猫を撫でる。
「元々、これはマリリン・モンローがホリーを演じるはずだった、ってのは有名だよね。それを作者のカポーティの意図しない形で、オードリーに変更になった。この辺はあまり詳しくは明らかになっていない」
中身のストーリーも大幅にテイストが変わってしまった。主演が変わると作品の雰囲気自体変わってしまうので、それに合わせた、とも。
「聞いたことありますね。マリリン・モンローがコールガールという役を断った、とか」
その話はオードも研究内。演じる役柄を吟味していた、ということも有名。なんでもかんでも、とはいかなかった背景。
気持ちよさそうに弄ばれる猫。その手を止めて、少しずつ、花を形造り出すリオネル。
「まぁ、この時代のハリウッドは、映画会社と俳優が専属契約を結んでいたからね。レンタルで他に貸し出し、というそこが上手くいかなかったんだろうと思うけど、本当のところは不明。原作と大幅に変えちゃうのも日常茶飯事だったし」
良くも悪くも、それが映画全体に大きな影響を及ぼす。そう考えると、ここまでの大ヒットとなったこの作品は、変更で良いほうに転んだのかもしれない。
「とすると?」
痺れを切らしたオードが、じわりとアレンジメントを促す。先延ばしされるのは、なんかこう、じれったい。




