158話
答えが出ないまま、悶々とオードが考え込んでいると、目の前に唐突にカップが置かれる。いつの間にか数分経っていた。
「——! す、すみません、色々と考え込んで……いて……?」
焦って取り繕うが、同時に違和感に襲われる。エスプレッソ。ミルク。にしては。なんか……こんもりとしている。
「ちょっと遊びを入れてみた」
と、自分用のエスプレッソを啜りつつ、リオネルも席につく。遊んだのはオード用。面白そうだから。
「……遊び……」
若干放心したような状態でオードはカップを見つめる。そこにあるもの。それは——。
立体的となったラテアート。
そして視線を作者に移すと、自身とは逆にリラックスして伸びをしている。
「悩みのある女性は、だいたいこれを作ると笑う。あんま笑ってないけど」
味は変わらないので自分のぶんはやっていないが、リオネルとしては鉄板のネタ。効いてないとなると厄介。
その立体。見たところ、耳があり、鼻があり、目があり、ヒゲがある。尻尾も。おそらく黒い部分はショコラを。針のようなものの先端につけて繊細に表現したのだろう。というかこの形。
「……猫?」
「猫」
断言するリオネル。優しそうなライオン、ではない。猫。
当然、唐突な猫にオードは反応する。
「……なんで猫?」
「足元。キミの?」
と、リオネルはエスプレッソをもうひと口。ロブスタ種変えたな、と娘の舌の成長にご満悦。
指摘され、テーブルの下をオードは覗く。
「足元……? あっ——」
先ほどの白い猫。ここまでついてきていた。自分自身で精一杯で、全く気づかなかった。よく踏まずにいれたものだ、と逆に自分に感心する。
「パリってあんまり野良猫いないからね。珍しい」
テーブルの下で和む猫を、屈んで撫でるリオネル。ミルクでもあげたいところだが、人間用のものはあげないほうがいいんだっけ? 大丈夫なんだっけ? わからなくなったのでやめておいた。
特に誰にも縛られず、自由気ままに行動する白。映画に登場すると「なにか意味があるのでは?」とオードは深読みしてしまう。不思議な存在。
「だから……猫」
「まぁ、なに作ろうかって迷ったら動物にしておけば、だいたい上手くいく。犬にするか猫にするかは気分だね。とりあえず、飲んじゃって」
軽くネタバラシを含みつつ、出来栄えには太鼓判を押すリオネル。出来る男はモテる。たぶん。
崩してしまうのはもったいないが、なにしても消えてしまうフォームドミルク。罪悪感を覚えつつもオードはカップに口をつける。
「はぁ……ありがとうございます……」
うん、美味い。フォームドが綺麗に出ている。猫は胃の中に消えた。




