157話
「ま、聞いたことあると思うけど、ここは話を聞いて、そんでアレンジメントを作る店だから。少し特殊。なにか悩んでる?」
自分の店〈クレ・デュ・パラディ〉とは勝手が違うが、リオネルはこの店のルールに従う。
「……」
花々を見渡す。香りがする。様々に混じり合って、でもそれが不思議と心地よくて。オードはやっとそこで話しかけられたと気づき、ハッとする。
「あ、あの……すみません……いいんですか、勝手に……?」
留守番と言っていたのに。娘の店だからいいのか……? と納得しかけるが、もし自分の立場で父親が勝手にやっていたら……と思うと、若干気が進まない。いや、話は聞いてほしいけど。
かしこまった状態では、ちゃんと話せるかわからない。読み切ったリオネルは、リードするように話を前へ。
「いいのいいの。エスプレッソでいい? ドリップ派?」
どちらもこの店にはある。貰い物のエスプレッソマシン。あの調香師のオッサンからの。
トントン拍子に進んでいく事態に、逆に少し居心地の悪さも覚え出したオード。
「あ、ありがとうございます……いえ、そんなおかまいなく——」
「ちょっと待っててね。イス、座ってて」
リオネルは店の中央にある木製のテーブルセットを勧める。接客用の、年季の入った思い入れのある品。ここで多くの涙や喜びを見てきた。自身は奥のレジなどもあるキッチン部へ。
残されたオードは、仕方なしに座る。が、キョロキョロと目を動かし当然落ち着かない。だいたいの大きさや全体像などを把握。
(……ここがベルの働いてる……いやいや、本物……だよな……うん)
まだ信じられない。納得していてはいるが、何種類もの感情が入り乱れ、まともに話せるか不安でしかない。
コォォォォ……というマシンの音に混じり、掻き消されながらも、リオネルの声が店内に響く。
「ミルク大丈夫!? アレルギーとか」
「あ、大丈夫です! ありがとうございます!」
届くようにオードも多少大きな声で。そんなに離れているわけでもないが、マシンのスチーム音がまぁまぁな大きさのため、一応。力が入っていたのが抜けてきた。深呼吸し、イスにもたれてみる。
(……こんなにあっさり会えたりするもんなのかな。ショコラとかのM.O.Fには会ったことあるけど、いきなりだと。しかも二人きり)
その人物がまさか自分にコーヒーまで。エスプレッソ。本場のイタリアだと山盛りの砂糖を入れるんだっけ、となにかで聞いた知識。余計なことも色々と考えてしまい、本題を忘れかける。
(……いや、でもいきなり『オードリー・ヘプバーンをショコラでイメージすると』なんて聞き方していいものなのか? しかも箱まで。花についてはそりゃ詳しいだろうけど、全く違う分野だし……)
あいつがビリヤードの初心者なんだかんだと言っていた事。わからなくもないが、変なヤツだとか思われないか。今後、もしかしたら仕事……できたらいいなってレベルだけど、その人に対して。逆に、そういう話が好きな人だったりする?




