153話
少し間が空いたんだな、というのをオードはショーウィンドウから感じた。わりかし頻繁にここには足を運んでいたつもりだったが、気付かないうちに後回しになってしまっていたのかもしれない。陽が落ちてきたので、少しずつ街全体が人工的な明るさを帯び、制服姿の自分を照らす。
七区、パリでは最古のショコラトリー。ここには、彼女の憧れに近いカルトナージュが飾られていた。素敵なショコラとカルトナージュ。目指す完成形、いや、その先をあたしは目指しているけど。そのラインナップが変更になっていた。ノエルが近づいてきたからか、以前の青ベースの豪華な箱はなくなり、赤と緑を基調としたカラーに変更されている。
どこの国でもノエルは赤と緑と白。黒や青の人だっているのかもしれないのに、少数は淘汰されていく。だが、不満があるわけではない。いつも見ている青白赤の三色以外に、特徴のある別の三色。三という数字もいい。この時季は求められるカルトナージュもこの色が多いし、ノエルっぽいものを作るのも好きだ。
教会をカルトナージュで作り、その中にペーパーランプを入れて暖かみのある模型として。フラワーアレンジメントなんかと合わせてもいい。そんな使い方もできる。ね? 面白いでしょ?
「でもなぜ……ウチに依頼がこない……」
新しくするなら、一九区にある『ディズヌフ』まで一報をくれたら、すぐに飛んでくるのに。学校なんて休んで。だが、今回も素敵だ。サンタのような小さな人形が傍に。いつだってこの季節はドキドキさせてくれる。
「……そういや、あいつと出会ったのもここか……」
いつも騒がしくしてくるあいつ。頭はいいはずなのに、どこか抜けていて。不躾で、適当で、強引で。
「……わけのわからん問いを出すなっつの」
そして人任せで。だけどそれが案外面白くなってきてて。
「オードリー・ヘプバーン『ムーン・リバー』……」
今一度、その曲を考えてみる。
一九六〇年、ニューヨーク。オードリー演じるホリーは、玉の輿を狙う女性。いつかティファニーのような、静かな気分になれる場所に住むことを目標にしていて。そこへ売れない作家のポールが引っ越してくる。んでまぁ、色々あって外から歌声が聴こえるなと思ったら、ホリーがギターを弾きながら歌っていたと。
「これをどうショコラにすんの? いや、カルトナージュも……」
あたしはあたしなりに気になったワードを盛り込んで、ショコラを入れる箱を作るしかできない。とりあえず映画は観てみた。そんな中、気になったものといえば——。目線を下にずらす。
「……あんたよ」
思考するオードの足元にすり寄る一匹の白い塊。ミャオ、と小さく鳴きながら。パリで見かけるのは珍しいが、ちょうど考えていたのはキミだ。猫。カオマニー。




