152話
「お? 対抗する? 勝負しちゃう?」
安全な場所から見下ろすキーラには、若い者同士でギラつくのは楽しい。どうせワンディも同じだろう。
しかしすぐさまクロエは否定。
「いえ、売上などで勝負する気なんてありませんから。というか無理でしょう。この店が『WXY』に勝つなんて」
勝手に弟子同士をライバルに認定していると予測。ジェイドさんも絶対弟子と思っていないはず。
痛いところを突かれ、一歩後退するキーラ。
「……言うねぇ。まぁ、そうなんだけど。ターゲット層も違うし、しょうがない。で、どんなの?」
なにも間違っていないので、進行の妨げはしない。実際、日々の売上は倍以上だろう。同じ地区だが、やはり観光客が飛びつくのはあちらだし?
キッチンのほうをチラッと見て、よし、とクロエはひとり首肯。
「今、考え始めたばっかりなのでわかりませんが……」
喋りながらも様々にイメージで失敗を繰り返す。黙ってからも何度も。その中でひとつ、まとめきった。
キリのよさそうなタイミングをキーラは選び、一応聞いてみる。教えてくれないと思うけど。
「どんな?」
口元を手で覆い、言いづらそうにしながらも、クロエは重く口を開く。
「……チャップリン、好きな言葉があるんですよ。ネットで知った言葉なんですけど、それをショコラにしてみようかなと」
自己啓発として色々と探っていた頃見つけた言葉。今、それを形にしてみたい、と。
しかし宣言されたキーラとしては驚き以外のなにものでもない。
「音楽じゃなくて?」
向こうが音楽でくるなら、こちらも同じ土俵に立たなきゃ。サッカーと野球でどっちがトライを多く決められるか、みたいな勝負になってしまう。
その提案も即座に拒否するクロエは、そもそも手料理を振る舞いたい、程度にしか考えておらず、勝負という概念はない。
「それはジェイドさんにお任せしますし、別に競ってるわけではないですから。ふと思いついただけです」
全く違う趣旨のショコラ。同じで作ってもそれはそれで面白いかもしれないが、まずは自分のやりたいように。
「で、どんな風にするの」
もう一度だけ、キーラは尋ねてみる。ほんの少しだけ……!
その想いが通じたのか、一度キッチンのほうへクロエは向かう。
「お? お?」
期待しつつキーラは待っていると、すぐにクロエが手に道具を携えて戻ってくる。
「これを使ってみようかと」
そう言い放ち、両手に広げて見せたモノ。
「……これは……そういうこと」
そこから想像できるもの。キーラはなんとなく思い描いたが、うん、中々面白いんじゃない? と、太鼓判を押した。




