151話
またも手を止め聞きいるクロエ。なに、なんだって?
「……チャップリン? 売り物じゃないって——」
「オーナー判断でダメだって。よりによって権利関係が厳しい人物を選んじゃったね。御愁傷様」
あーあー、とキーラは表情を歪めた。まぁ、そういうこともある、と顔も知らぬ新人さんに同情。同時に、新作を作る難しさを知るといい。
明らかに仕事のスピードが落ちたクロエ。なにか考え込んでいるのか、呆けながら同じところを何度も拭き取る。
「……それって見ることできますか?」
ふと、なにか決意したようにクロエは自分の欲望を吐露した。見たい、見てみたい。そんなテーマ、考えたことなかった。マリー・アントワネットに続いてチャップリンて。
常に平熱だと思っていた少女の、一瞬見せた炎。目を丸くしたキーラだが、すぐに笑む。
「できるよ。なんだったら今度、終わったら行ってみるといい。向こうはよくて、こっちはダメってことはないだろう。電話もいいけどね」
ショコラトリーは基本、争うものではない。それぞれの店にそれぞれの味と個性があり、必要とあらば観光客などの要望を聞き入れ、お互いに紹介もする。ショコラの存続と発展には、若い力が必要。違う店であろうと、気兼ねなく教え、教わる国民性。
しかし腑に落ちないクロエ。どこからきたアイディア?
「なんでチャップリンを? 映画スターだとは思いますけど、音楽っていうのは」
なにかをイメージ、というのはよくある話。ブッシュ・ド・ノエルなどはいい例で、クリスマスの切り株という意味で定番である。だが、形として存在しない『音楽』というテーマ。ある意味で自由、やりたいようにできる。全く想像がつかない。
「私も知らなかったんだけど、チャップリンは音楽まで担当していたんだって。そこからショコラにしよう、なんて普通は思わないけど、若いっていいねぇ」
ぶっ飛んでるね、とキーラは上機嫌。少しその子にも興味が出てきたし、カルトナージュ前提で作られているという、もうひとりの子との信頼感。相乗効果で高めあうのも楽しい。普通は店の名前がプリントされた箱などに入れるだけだし。通常に販売されるようになれば、カルトナージュの需要も増えるだろう。ショーケース用の見本、で終わらない可能性。
半開きになったクロエの口内で舌が動く。声には出ていないが、言語化して脳内で形としていく。
「……ひとつ、作ってみてもいいですか?」
ある程度まとまったところで提案。完全ではないが、思いついたものがある。たしかチャップリンは——。




