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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
オードリー・ヘプバーン
150/317

150話

 二〇時。『プロムナード』の閉店時間。指紋ひとつないよう、丁寧にショーケースのガラスを磨くクロエに話しかける女性。


「ワンディが来たんだって? アイツも変わらないねぇ」


 他人事のようにケタケタと笑う。実際、他人事。自分の酒を飲まれたのは痛いが、まぁいいかとやり過ごす。


 手をピタリと止め、ゆっくりと声のするほうにクロエは振り向いた。


「面倒でしかなかったです。なんとかしてください、キーラさん。仕事になりませんでした」


 その日のことを回想し、結局いつもの帰宅時間より一時間近く遅くなってしまった。振る舞った自分も悪いが。そもそもがなぜ来たのか。


 そんな突飛な行動はいつものこと、とばかりにキーラと呼ばれた女性は理解を示す。


「まぁまぁ。一応製菓学校では教わってる身だ。うまいこといなしてくれ」


 彼女の行動に意味を考えてはダメだ。楽しいこと、厄介なことを優先する。だが講師をするほど確かな腕を持っているのは、間違いないわけで。


 とはいえ何度も来られても困るので、対策を講じるクロエ。


「店の前に張り紙でもしておきましょうか。賞金首みたいに、店内で見かけて捕まえた人には、ボンボン詰め合わせプレゼント、みたいな」


 どこまで通用するかはわからないけど。


 ニヒヒ、とキーラは口角を上げる。


「いいねぇ。アイツ喜んじゃうよ。むしろ来る回数増やして、アルバイトの子とかにわざと捕獲させるかもね。んで、詰め合わせゲット」


 プロムナード特製ボンボンを無料で食べるために。むしろ毎晩来るだろう。酒のお供として。


「……やっぱり却下で」


 自身の浅い策など、彼女の養分にしかならないことを再認識。クロエは肝に銘ずる。


 だが、なんとなく不満の中に朗らかなオーラが確認できたキーラは、そこを突いた。


「でもなんかいいことあった? 楽しそうじゃん」


 いつもの仏頂面がどこかソワソワしているような。落ち着かない、という表現が一番正しいか。


「別に。ただ、同じくらいの年齢で、同じようにショコラティエールを目指す方と話せました」


 掃除をする手を再度起動させる。早く終わらせよう。


 少しずつ柔らかみを増してきた弟子に、キーラは喜びを覚える。


「あそこのジェイド、って子だね。想像が突飛だ。『音楽』をテーマに新作を作っているらしい。マリー・アントワネット以外にも、チャップリンを作ったそうだよ。売り物じゃないけど」


 流れてきた情報を惜しげもなく披露。ダダ漏れしているが、このあたりの緩さも友人ゆえ。

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