148話
プレーンな味も含め、三種の食べ方をするオード。結論を出す。
「あたしはこっちかな、うん。食感が楽しい。グラスにはこっち」
「私はペーストのほうがいいね。半々でうまく混ざり合う」
さらにピスタチオも加えて、ジェイドは四種類の楽しみ方。
「いや、なんであんたが食べてんのよ。あたしのじゃん」
忘れてはいけないのは、一切彼女はお金を出していないこと。瓶だけ。カカオジャン……なら……いいの、か? オードもわからなくなってきた。
そこに次なるジェイドの理論が投入される。
「私の提案だからね。再診料だ」
もはやなんでもあり。言ったもん勝ち。そのうち税金とかも用いる予定。
呆れ果てたオード。開いた口が塞がらない。
「どんだけ増えんのよ……で、なにかアイディアは浮かんだ?」
だがもし。なにかいいショコラが思いついて。そしてそれが自分の名を売るようなもので。だったら許す。だが。
「いや、なにも? 今日は食べたかっただけだ。なにも考えないようにしている。むしろ、ショコラとは全く関係のない人々からの意見を取り入れたい。新しい創意工夫はそこからだ」
「はぁ?」
もはや何度、ジェイドに対して言ったかわからないオードの「はぁ?」。いつも理解の範疇の外。てか。悩み解決はどこいった。期待はしてなかったけど、食べたかったからってオイ。
尤もらしい理由をポンポンと羅列するジェイド。悪く言えば言い訳。
「ビリヤードのプロでね、初心者のショットは、新しいアイディアの宝庫だと言った人がいたそうだよ。最短で無駄のないものより、まっさらで自由な遠回りが功を奏すこともあるからね」
だが「なるほど。そっかー、ならしかたないね」とはならないのが今日のオード。この際、徹底的に問い詰めてみる。また前回、前々回のように身内だけの見本品で終わるのはコリゴリだ。
「で? 今度は著作権だのなんだの、そういうのは大丈夫なの?」
前回、まさかまさかの権利の関係で挫折という、スタートラインに立つことすら叶わなかったほろ苦い思い出。結構よくできたと自画自賛するカルトナージュは、またしても大々的にお披露目とはならなかった。
大袈裟に足を組み替えるジェイドの表情は、余裕が見て取れる。
「あぁ、今のところチャップリンほど、厳格な規定はなさそうだ。ちゃんと交渉して著作権料を払っていけば、なんの問題もない」
あれはいい思い出だね、と前向きに捉える。結構本気の顔で「……すまない」と言っていたことは忘れた。
今更過去を振り返ってもしょうがないので、オードも思考を切り替える。そしてグラスは早めに食べる。
「ならいいけど。オードリー・ヘプバーン『ムーンリバー』。いけそうなの?」
全く自身には思いつかないが、なんだかんだ前回前々回は形にはなっているので、きっとなんとかなるのだろう。だが。




