146話
……ピタリ、とオードの動きが止まり、ジロッと目線だけ流す。
「……なんであんたはあんたで別のもの頼んでんの? あたしの悩み相談なんでしょ? あんたは関係なくない?」
一応は依頼主である自分はまぁ……わからないでもない。いや、ちょっと無理やりな気もするが。そこへ二個ぶんの料金を取られることになるというのは、うん、まぁ、おかしい。
キョトン、とした顔のジェイドだったが、あぁ、とひとり合点がいった。
「なるほど。いや、私のは単純に興味だ。気になっていたんだ。なら食べてみたいだろう、世界一の味を」
世界一……いい響きだね、と店構えをもう一度網膜に焼き付ける。いつか。自分も。こんな感じの店を。
しかし一切解決していないことを、オードは理解している。
「で、なんであんたのぶんまで奢らなきゃいけないわけ?」
そこ。全く繋がっていない。ひと口くらいだったら食べさせてあげても、という気もあったが、まさかのがっつりと一人前。ひと口ぶんもあげる気がなくなった。
ツッコまれたジェイドは、うんうんと唸りながら、それっぽい口上を並べる。
「それはほら、あれだよ、相談料だ。一応、私もプロだからね。バイトだけど」
お金をいただいて、お店の顔として販売している。それはつまりショコラのプロ。なら、しっかりと責任を持ってお金を取るのが筋というもの。これだ。
当然、オードとしても納得はいかない。
「さっきは診察料とか言ってなかった? なんで相談料まで追加されてんの?」
それの答えとしてトントン、と頭を右手人差し指で叩くジェイド。目線は空。
「なんかね、インスピレーションが降りてきそうなんだ。ピスタチオとショコラ。なにかありそうなんだよ」
「そりゃあるでしょ。すでに発売してんだから」
オードの指摘通り、ピスタチオにショコラをコーティングしたものはスーパーでも市販されている。特別真新しいものではない。
はぁ、とジェイドのわかりやすいため息が宙に舞う。
「……わかったわかった。オードにもあげよう。それでどうだ」
「いや、だから全部あたしのお金だっての」
なんかもう、せっかく来てこんなことでケンカするのも、列に並んでいる他の人達に悪いのでオードが先に折れる。はいはい。
そうして回転は早く、購入したグラスを持って歩き出す。やはりクリスマスマーケットが近づいてきているためか、人口密度が上がっている。その間を縫うように目的地へ。
「なんだかんだ言ってオードは優しいからね。ありがとう」
いい終わりにひと口、ジェイドが食べる。ピスタチオのフレーバーが強いが、香ばしさとのバランスがいい。コーンとの相性も。若干の塩が飽きさせない味。これは売れる。




