145話
オードは自然な会話の流れに騙されずに、冷静かつ強めに跳ね返す。
「は? あんたの奢りじゃないの?」
元々そちらから自分にお願いしてきたはず。アイディアがなんとかかんとか。その場合、先に声をかけたほうが奢るのが定跡。
しかし表情を崩さないジェイド。お互いに正義がある。
「オードの悩みを聞いてあげてるんだ。診断料くらいは取るだろう?」
グラスでいいよ、と少しまけてあげたかのような言い方に、オードは「ほぉ……」と頷いた。
「悩み変更。今まさにカツアゲされそうになっている、にして。なんで自分のお金で、解決するかもわからないギャンブルしなきゃいけないのよ」
本来ならやらなくてもよかった悩み相談。いつの間にかおかしい流れになっている。そこはしっかりと断らないと、今後もたかられる心配がある。
一部、その主張をジェイドは認め、「わかったわかった」と目の前の怒りを鎮めようとする。が。
「半分」
「はぁ?」
まだ食い下がる姿に、より一層オードの声の怒気が割合を増す。眉間の皺も。
「半分で手を打とう。半分は私が出す。それでどうだい?」
ジェイドは満面の笑みで折衷案。これで世界は平和。少しずつ窓口まで近づいてきている。早めに決定しなければ。
ここまで意見を曲げない相手に、オードはひとつの可能性を見出す。
「……あんた、あんまお金ないの?」
そういえば、以前この子の家に行った時も、かなり使い古した道具が多かった。貰い物だ、と言っていたが、だとするとバイト代はどこへ? 住居も寮だし、そんな散財する?
言われて数秒、間を置いてジェイドが「ふっ」と鼻で笑う。
「給料日がね。今月はたぶん来週くらいなんじゃないかな。毎月違うからね。予測できない」
ゆえに今は手持ちがない。でもグラスは食べたい。ならどうする? それは人のお金。
フランスでは、よく給料日がズレる。特にアルバイトは顕著で、最大で半月以上違ったりもするので、常に財布に中身と口座の額は気にしておかなければならない。
そういえばコイツはこういうヤツだった。常識があるようでない。聞いた話によると、コイツの上司はもっと豪快だそうだ。オードは諦めた。
「……あー、もういいわよ。んで? 味付けするしバニラ味でいいのね? ったくもう——」
「いや、私はピスタチオで。オードのはそうだね、バニラのほうがわかりやすいだろう。じゃあ、頼むよ」
ささ、と前を促すジェイド。カップのほうがいいだろう、と種類まで選択。私はコーンで。




