142話
「というわけで、思いつくことがあったらじゃんじゃん言ってくれ、私の天使よ」
「気持ち悪っ」
本日も他力本願でショコラのアイディアを創造するジェイド。自分だけでどうにかしよう、なんてカッコいい考えは脳の片隅にもない。地球上の生物・無生物関係なく自分の師匠。地球の後輩。それを率直な感想で返すオード。
「カルトナージュはともかく、なんであたしがショコラまで作成しなきゃいけないのよ。それはさすがにあんたでしょ」
ほんの少しだけ、歩み寄ってはみる。自分が有名になるならなんでもする。だが、ほんの少しだけ。こいつといると面白い。かもしれない。かも、だからね?
凱旋門の見えるシャンゼリゼ通り。学校終わりになんとなく、二人で歩く。車の往来の激しいこの通りでは、歩道の並木道は職人によって美しくカットされる。すでに道行く人々は厚着をして、冬の到来に備えており、抜けるような青空ではあるが、寒々しさも見え隠れしたパリの午後。
「別に身構えて作ろう、なんて思わなくていいんだ。私も自然に任せている。ただ、いいアイディアが生まれたら頼むよってこと」
あの手この手でジェイドは取り込もうとする。いいアイディアはどこに転がっているか、どこから生まれるか、誰が持っているかわからない。ならば、最初から両手を広げて全部受け止める構え。
その点については理解するが、オードが気になったこと。
「で。あんたが言ってた『オードリー・ヘプバーン』のショコラは——」
「おっと。それ以上は秘密だ。秘密というか、なにも。だが、それ以上に大事なことに気づいたんだ」
妙に気取りながら、役者のように台詞を語るジェイド。木に手をつき、もはや演じる。
さっさと答えを欲しいだけだったオードは、若干面倒になってくる。むしろ答えもいらない。
「は? なに?」
一応聞く。
「みんなの悩みを解決できるような。そんなショコラが作りたい。新作は二の次だ。焦ってもいいものはできない」
クロエと関わってジェイドが気づいたこと。それはショコラティエールとしての本質。もちろん、新作を考えることがそうではないとは言わない。楽しんでくれる人だって、どこかにいるかもしれない。だが、幸せになるような。食べた人がほんの少しだけ、重かった気持ちが軽くなるような。それをショコラで届けたいだけ。
という、憑き物でも落ちて晴々としたような、インドのガンジス川で悟りでも開いたかのような、達観した目の前の少女に対して、ただただ怪しむオード。
「……なんかすごくまともなことを言っている気もするけど、まぁいいや、ならほら、あたしの悩み。解決してみてよ」
こうなったら乗っかってしまったほうが早い。ボロを出すまで踊ってやろう。




