141話
「そう言われてみればそうだねぇ。ところで今はそっちはなにをしていたんだ?」
自分のことばかり話していて、なんとなく気が引けてきたジェイドは話を振る。実際なにか音がしていて気になる。
手元を止めてフォーヴは状況を語った。
《私? 私は今、アンサンブル室でチェロを清掃しているよ。本当は弾くつもりじゃなかったんだがね。暇そうなピアニストを呼んで、二曲ほど》
一度、清掃して帰ろうかと思ったんだが、どうも滾ってしまい、弾いてまた清掃中。我ながら歯止めが効かない。
昔からそうだった、とジェイドは回想しつつ、最近の事情も探る。
「相変わらずのチェロ愛だね。どんなのを弾いていたんだ?」
自身にわかる範囲内で。
《クラシックには死神やら悪魔やら魔王やら、物騒なものがいるだろう? そういったものかな。怖いけど魅力的で、恐ろしいけど美しい》
なにやら詩的な感性のフォーヴに対し、料理の道でも交わる部分がある、と納得のジェイド。
「たしかに。料理にも『悪魔風』とつくものが多数。美味しい」
イタリアなんかでは『ディアボラ風』なんて言われ方をしていたりする。鶏肉をパリパリに焼いた姿が翼を広げた悪魔のようだ、とのことだが、鳥なんだから翼を広げるだろう。わざわざ悪魔を持ってこなくても。
清掃終了。そろそろ戻ろうとフォーヴは立ち上がった。最後に友人について聞いておきたい。
《死が怖い死神も、人間が大好きな悪魔も魔王も、それはそれで魅力的だ。キミの友人は——》
「彼女は、私の無茶な要求にも応えてくれる、天使のような女性さ」
自信を持って、ジェイドはそう言える。




