139話
「まぁそう信じようか。そうだね、面白いものが席巻し出している、という感じかな」
自身の近況、というのとは違うかもしれないが、最近気になるショコラが出てきていることをジェイドは伝える。
《ふむ、詳しく》
なにやら面白そうなので追求するフォーヴ。ベルギーのショコラは意外と変わり映えしない。
一度寝返りを打ち、携帯に至近距離からジェイドは話しかけた。
「やはりショコラといったら『味』『見た目』なんかが売れる条件なわけだが、そのどれでもない。ましてや、私のように箱に価値を求めるわけでもない。ある意味で盲点だったよ。さて、なんだと思う?」
ふふん、と笑い声も届ける。その吐息まで電波に乗りそうなほど。
その言い草から、どうせ当たらないと予想されている、そうフォーヴは見抜いた。少し本気で考える。
《商品そのものに価値があるわけではない、ということか》
ショコラに目を向けさせておいて、どこか違う視点で見なければ当たらない答え。いやらしい。
またゴロゴロとベッドで転がりながら、少し訂正を加えるジェイド。
「そういうとまるでショコラに手を抜いているように聞こえるが、そんなことはない。普通に美味しい。オーガニック認証までもらっている、健康にいいものだ。が、我々とは違う路線、という感じかな。客層が被るというわけではない。お土産向き、と言っていいかもしれない」
実際、初めて目にした時に「やられた」と感じた。友人達とワイワイ盛り上がりながら楽しむショコラ。
ショコラトリーのショコラはスーパーのものと比べて高級だ。贈り物、自分へのご褒美、大切な日のためなど、少し身構えた人に向けているものが多い。そんな気取らずに毎日のオヤツ感覚で来てほしいものだが、そこに一石を投じた商品。
チェロを掃除する手を止め、思考に全振りするフォーヴ。チェロのヘッドを頭に当てて、少しでも脳に刺激を。
《……となると、ショコラ自体になにかしら仕掛けが。どこかの国のカカオ料理とか》
もしくは食べることでなにかの寄付に繋がるとか。かつて、ベルリンでは街中に『二ユーロTシャツ』と書かれた自動販売機が置かれたことがある。面白半分で買おうとお金を投入すると、この安いシャツを作る悲惨な労働環境の映像が流れるようになっていた。それを観た人の大半が、買わずにそのまま二ユーロを寄付したという。的な。
「それも違う。ショコラはよく見るタブレットやプラリネといった、シンプルなものだ。ヒントを出すと、彼らはそこまで凝ったものは作れない」
そろそろ降参濃厚な色合い。ちょっとだけジェイドは嬉しい。いや、自分で考えたわけではないけど。




