136話
そこから学んだ、自身なりの解答。ジェイドは胸に刻む。
「失敗ではない、違う成功、というわけですか」
そんなことをエジソンも言っていた気がする。
明日は香り付けにリキュールでも入れてみようか、そんな新案がクロエに思いつく。
「そうです。だから、どんなショコラも成功なんです。自信があれば、値段を釣り上げてもいいんだそうです」
「……なるほど」
納得した。ジェイドは残ったシェケラートを全て飲み干し、体に浸透させる。収穫があった。大きな。
「勉強になりました。すごく。美味しかったです。どこで洗えばいいですか?」
グラスを持って片付けに入る。その他、シェーカーなど、自分が飲んだものは清掃しないと。
「大丈夫です。私もいただきますから。そのままで」
ショーケース上のトレンチを示すクロエ。ここに置いておいてください、と指定した。
「すみません、ありがとうございます」
乗せてまとめるジェイド。またここには、営業時間内に来よう。しっかりとこの店の味を知りたい。
「ん? もういいの?」
ダイキリを三杯はすでに飲んでいるワンディが、どこかに行こうとする部下を引き止める。そろそろシェケラートも飲みたくなってきた。
酔っ払いは引き取るべきかもしれないが、とりあえずそのままでジェイドは先に帰宅する旨を伝える。
「はい、ごちそうさまでした。よろしければ、ウチの店にも」
ライバル、とは言えない。自分は彼女と肩は並んでいない。友人、とさせていただきたい。勝手にだけど。
そのテレパシーが伝わったのか、クロエは微笑む。
「ぜひ。実はたまに行っているんですけどね」
と、ここで新事実。『マリー・アントワネット』も見に行った。本来は『WXY』の関係者のみらしいのだが、ワンディに半ば無理やり。
「そうだったんですか? 気づかずすみません……」
失礼なことを言ってしまった、とジェイドは反省。ひとりひとり、お客様の顔をしっかりと見て対応せねば。また学んだ。
クロエも、少し落ち込ませてしまったようで、急いで取り繕う。
「いえ、そちらはカフェもあって忙しい時間帯が多いでしょうから。実際、いつも並んでるくらいですし」
彼女にとっても、まさか見本のためのショコラは初めてだった。認めている、というと上からみたいで言えない。友人、と言えたらいいな。
「では、また」
今度こそ店を出るジェイド。早く次のショコラを作りたくてしょうがない。考えて作るのはやめだ。その時その時、刻々と変わるその人に最適なショコラを。私達は、笑顔にするためにショコラを作っているのだから。




