134話
悩み方からして、ジェイドが気づいたことを悟ったクロエ。種明かしの時間。
「はい、ベネズエラ産のカカオを使っていますので、若干のナッツの香りがする、バランスのいいシェケラートになります。ですがウチは——」
そう言いながら目線を壁に設置された、販売用の瓶に移す。
「一〇の産地ごとにショコラソースがありますから。スパイシーなドミニカ産、濃厚で舌触りのいいブラジル産など、気分や好みによって変えるのもありかもしれません」
つまり、このシェケラートも数ある味の中のひとつ。さらにエスプレッソの豆も、もっと浅煎りに変更するなども可能。無限の味わいがある。
圧倒されるジェイド。なんで売り物じゃないんだろう、と疑問しかない。
「……すごいですね。知識もそうですけど、意外性というか。なにが出てくるのか楽しい、というか」
ショコラのワクワク感。長く触れすぎていて、忘れていたもの。元々は薬だったが、しっかりとジェイドに処方された。
楽しい、という発言にふと、クロエはシェーカーを持って凝視する。楽しい。なるほど。
「たしかに、遊んでいるという感覚のほうが強いかもしれませんね。シェケラートもやり方は知っていましたが、初めてやりました」
「い!?」
ジェイドは飲んでいたシェケラートを唇から離す。いや、美味しいからいいけど、実験台のようにされていた事実。
その経緯をクロエは説明する。
「キーラさん……ウチの店長は、練習なんかさせてくれません。本番だけです。練習というものはないんです」
なのでこれも本番です、と自信を持って勧めることができる。味見もしていないけど、なんとなくイケる気はしていた。
まさか、と思い確認せざるを得ないジェイドは、一歩彼女に詰め寄る。
「え、いやでもほら、試しに作ってみる新作とか、そういうのもあるじゃないですか。失敗だって——」
「失敗したら、《失敗しました》っていう表記をして売ります。もちろん安くはしますが、それでも結構売れるんですよ。食べられないものは入ってませんし、わかって買っていくわけですから、ノークレームノーリターンです」
最初の頃は、とは言いつつも若干の怯えがクロエにはあった。しかし、驚くほど否定の声は聞こえてこなかった。わかって買っているうえに、味が変わらないものも多い。なら安いのはいいものだ、と。
そんなのアリ……? と探りを入れつつ、さらにジェイドは質問を重ねる。
「新人の頃のものも、ですか?」
その通りだとすると、入社初日から作ることになるかもしれない。ボンボンすらまともにできないだろう、そんな状態でどうするつもりなんだ?




