133話
苦笑しつつも、ジェイドが気になるのは手元。まさかシェーカーを使うとは。
「それで、私のショコラとは——」
「はい、このビアレッティのモカエキスプレス。本来ならエスプレッソマシンで淹れるのが一般的ですが、そんなものはないので、直火式です。これを氷が入っているシェーカーに注ぎ、ミルクも同量。そして振る」
氷・砂糖・エスプレッソ・ミルクが混ざり合う液体。さらに豆知識として「砂糖をまず最初に入れてください。クレマが分厚くなります」とクロエ。シャカシャカとシェイカーを振り、急激に冷やすと共に空気を含ませる。
飲んだことはないが、知っているかもしれないドリンクに、ジェイドの心臓がトクン、と小さく跳ねる。さらに最後に残ったショコラソースを組み合わせるなんて。
「……これってもしかして」
振り終えると、クロエは静かにシェーカーをボンボンショーケース上部の平らな場所に置く。レジ上は酒飲み達が好みの味を作ろうと悪戦苦闘しているため。
「はい、シェケラートです。が、少し違います。グラスもフルートグラスがいいでしょう。ここに当店オリジナルのショコラを適量。その上に静かにラテを注ぐと——」
グラスの底にはソース。雑にならないよう、スプーンの皿裏を使ってゆっくりと液体を注ぐと、フロートするようにグラス内に広がるカフェラテ。そしてクレマ、つまり泡の部分が上にくる。
「……層、になってますね」
美しく芸術的でもあるドリンク、シェケラート。簡単に作ったはずではあるが、ジェイドは心を撃ち抜かれたように見惚れる。三層に分かれたそれは、飲むことを躊躇うほどに。
「はい。糖分による液体の比重が違うので、いわゆるプースカフェスタイルになります。どうぞ」
スッとグラスを差し出すクロエ。中が少し揺れるが、混じることなくまだ層を保つ。
とはいえ、飲み方がわからないジェイド。ひと呼吸置いてから問う。
「これは、このまま?」
「まずは、ラテの味を。そして少しずつショコラソースを溶かしながら。徐々に変わっていく味も楽しんでいただけたら」
注ぐのに使用したスプーンも差し出すと、クロエはオススメの飲み方を伝授。いいところで混ぜて、と。
その通りにジェイドはまずひと口そのまま。ラテとクレマを一緒に。そしてスプーンでかき混ぜると、層はなくなり一色に。勿体無い気持ちを抑えて喉を鳴らす。
「……美味しい。エスプレッソの苦味、そのあとに少しずつ甘さとコクがきます。このショコラは……」
ただのショコラではない、と確信。甘さだけではない、ほのかにウッディな香ばしさ。ということは。




