131話
「二杯目。いきますか?」
その静寂を破ったのはクロエ。初対面の相手が留年しても、なんと声をかければいいのかわからないが、そんな時はお酒を飲むのもひとつの手。酒は全てを解決する。そしてあとで後悔する。
「私のぶんもよろしく。こんないいものをひとり占めなんてよくないね」
別になんの悩みもないワンディだが、単純にお酒が飲みたいだけ。注文を入れ、ワクワクして待つ。
承諾しつつも、クロエは次なる一手を用意していた。
「わかりました。それと、少し面白いものを出しましょうか。ジェイドさんも飲めるものです」
目線を合わせ、クスっと笑う。初めて見せた笑顔。
そのギャップに困りつつも、ジェイドはそのご厚意を受け取る。
「? はい、ありがとう、ございます……?」
「ではお待ちください。これも仕事終わりに飲もうかと思っていたのですが……」
歯切れ悪く、奥へ引っ込むクロエ。仕込みも掃除もしていないので、若干キッチンの人には申し訳ない。
それにしてもさらにまだあると。仕事終わりに宴会でもやるつもりだったのか、色々と謎が多いというのが全員の意見。だが、不思議とワクワクが勝つ。
「クロエもいいねぇ。スカウトしようか。時給いくらで応じるだろうか」
邪なアイディアを披露するワンディ。アイディアも面白い。引き抜くというのは、少々キーラに対して顔向けしづらいが、まぁ選ぶのはクロエだし。提示しただけだし。悪いのは選んだほう。
「……」
自分達の店長ではあるが、部下の二人は無言で感情を消す。
数分後、戻ってきたクロエの手のトレンチには、先ほどの材料に加えてポットなどが追加。ドリンクの類を連想させる。
「おぉ、いいねぇ。今度はなに?」
すっかりリアクション要員と化したワンディだが、ある程度の考察はしている。持ってきているもの。特に『シェーカー』。そこから導き出される答え。いや、なんであるのそんなもの。
新メニューより先に、先ほどのダイキリを準備。クロエは一式をエディットへ手渡す。
「ひとまず、これらを全部適当に入れて、あとはミキサーを起動させてください。セルフでどうぞ」
「え、私? 量もわかんないのに? 適当で?」
困った顔のエディット。酒なども入るため、しっかりとした計測を求められるものだと思っていた。
だがそもそもがここはバーでもなければ、グラニテやソルベの専門店でもない。バーテンダーもいない。作る楽しさも美味しさに含まれている。というのはクロエの建前。
「だいたいで大丈夫です。好みに合わせてください」
本当は面倒だからだけど、こう言っておけばなんとかなる。それっぽい。




