129話
いただきます。グラスの脚を持ち、エディットがストローに吸いつこうとする。すると。
「……ん?」
なにか接近するものが。顔を上げて確かめてみる。目の前。金髪のベルギー人。
「? どうしました?」
互いの額がぶつかりそうになる距離で、ジェイドが伺いをたてる。なにを驚いているんですか? と。
ジトっとした目でエディットは睨みつける。
「……なんでジェイドまで飲もうとしてんのよ」
「え? いや、だってストローが二本刺さってますし。私のための、じゃないんですか?」
たしかに、ジェイドの言う通り、ストローは二本。同時に飲もうと思えば飲める。カップル用? という予測をたてつつ、まぁいいか、と口を近づけた。が、それを阻まれる。
「これは氷が詰まったときのための予備。つまり、両方あたしの。なんでこんな仲良く飲まなくちゃいけないのよ」
この子は頭はいいのに、どこか抜けている。エディットは笑い出しそうになりながらも、先に飲み始めた。ショコラの風味を感じた後、ラムのほのかなスッキリとした甘さ。ライムの爽やかさも感じられる、甘酸っぱい恋のようなカクテル。
ジェイドが呆気に取られている間に、どんどんと量が減っていくダイキリ。
「だって知りませんよ、そんなこと。飲んだことないんですから。ストローが刺さって、中間に置かれたらそうなるでしょ」
本来なら自分が持とうとした。が、先に持たれたので仕方なく唇から迎えにいったのに。
全部飲み終えたエディットは、静かにグラスをレジに置いた。
「これにはアルコールが入ってるの。ホワイトラムもモーツァルトブラックもマラスキーノもお酒。つまりジェイドはまだダメってこと」
年齢的に。だからこのカクテルはあたしだけのもの。美味しかった。おかわりしたい。
全く、と愚痴りつつジェイドはため息をついた。
「先に言ってくださいよ。初めてなんだから……わかるわけ……」
と途中まで喋ったところで、異変に気づく。どこかエディットの表情が晴れ晴れとしたものになっているような。そんな感触。
唇を尖らせたワンディも、驚きの声をあげた。
「いつの間にか元気が出てるね。その手があったか」
そのままクロエのほうに視線を向ける。美味しいものを食べれば、と考えていたが、味もそうだが、それ以外のオプションの部分で楽しませてくれる。
「味や香りよりも、グラスやストローといった小物のほうが大事になることもありますから。それに、ジェイドさんが未成年なら、フローズンカクテルの飲み方を知らないと思ってました。うまく事が運んだだけです」
つまり、ジェイドが飲もうとすることまで予想済みで、クロエは二人の中間地点に差し出す。そうすればきっと、飲もうとしてカップルのようになると。




