127話
至って冷静にクロエは対処する。
「……ショコラティエールの仕事ですか、それ?」
それは占い屋にでも行ってください、と相手にしない。できることとできないことがある。それは仕事ではない。
片や、いきなり話の主役に抜擢されたエディットは、中心から逃げる準備。
「……いや、店長。別に落ち込んでいないですって」
落ち着きもある。別に落ち込んでなんかいない、と自身にも言い聞かせる。
エディットの言い分には応じず、クロエの問いにだけ返すワンディ。
「ショコラティエールの仕事かと言われたら、まぁ違うだろうね。だが多種多様なショコラの中から、クロエはどんなものを選ぶのか。単純に私が気になるんだよ。キーラにはいい風に言っておくから。掃除もほら、一緒にやろうか」
若い子には若い子の知恵。近い方が共感もするだろう。
散々引き伸ばされ、クロエも諦めの色が濃くなる。さっさとお帰りいただくには、話に乗るしかない。店長の友人だし、それに試してみたいものもある。中で明日の仕込みをしている方達には悪いけど、文句はこの人に。
「……別にそれはどうでもいいですが、そうですね。であれば、少し面白いものを。ウチでは出せませんが」
店内に飲食のスペースはないので、提供することはないもの。なんとなく思いついたので、やってみようか程度。考えること自体は好きだ。
そうこなくっちゃ、とワンディも上機嫌。
「楽しみだね」
「あまり期待しないでくださいね。簡単なものですから」
そう残し、道具を取りにクロエは裏に引っ込んだ。ひと手間加えるために、少し必要なものがある。
「……なんか、クロエさんに申し訳ないですね。というか、店長強引すぎません? あれはよくないですよ」
謝罪と叱責と。ジェイドはまずどれからすべきか悩んだ。今この場にいないクロエには、なにか自分からもお返しをしなければ。決めた、高めのショコラを購入して貢献しよう。味の勉強にもなるし。
「ジェイドさんはここ初めて? いいとこでしょ?」
店内を見回し、自分達の店とを比べながらワンディは遠い目をする。自分達だけになった店内。なんだか不思議な気分だ。
同じように天井、柱、窓、ショーケースなどを満遍なく視界に取り入れるジェイド。紛れもなくショコラトリー。自分達の店とは違う、だがとても居心地がいい。静まり返る世界でより、この店の輪郭が掴める。
「はい。七区は数店舗は行っていますが、ここは初めてです」
店長同士で知り合いだそうだし、ぜひ今度はいるときに挨拶に来よう。




