126話
だが、売上が上がろうが時給は一緒。特にクロエには魅力に映らない。
「ご自分で教えたらいいのでは? ここは『WXY』の支店でもなんでもないですよ」
「いや、店長。無理にじゃないですって。すみません、ジェイド・カスターニュと申します。今日は勉強させていただきます」
閉店しているから、勉強といっても邪魔しかできないわけであるが。申し訳なく思いつつも、来てしまった以上、断りを入れるしかないジェイド。一歩前へ出る。
話のわかる人もいたか、とクロエは顔にも声にも出さないが、とりあえず安心した。
「クロエ・フルカードです。まだ私も一年目なので、勉強になることなんかないと思いますけど」
フランスの挨拶。握手で交流。
「クロエは製菓学校の生徒でね。ショコラ以外にもパンやお菓子も学んでいるから、色々と参考にできると思うよ」
注釈を入れるワンディ。若いショコラティエール同士の架け橋になろうか、と目的を変える。できそうなことからひとつずつ。
しかしそれもクロエには気に入らない模様。あからさまに嫌な顔をする。
「……私にメリットがないんですが」
清掃を邪魔され、アイディアまで奪われそうになる。デメリットしかない。早く帰りたいのに。悪い人ではないと思うのだが、ワンディのことは少し苦手。いつも閉店後に来るし。
それもワンディには通じない。口だけならいくらでも回る。
「あるよ。ほら、同年代にライバル。欲しいでしょ? 私とキーラみたいな」
「必要ありません。誰かと争うとか、勝とうとかないですから。見ているのはお客様だけです」
売上ではそもそも、『WXY』には遠く及ばないだろう。オーナーも別にM.O.Fではないし。カフェもやっていないし。クロエは自分のペースというものを心得ている。
うんうん、とワンディは大きく頷いた。
「ね? 志が高いでしょ?」
満足気にジェイドに視線を投げかける。メンタルは働く上では大事なこと。そういう意味では『WXY』の二人は少しブレがある。焦燥感や悲壮感などが隠しきれていない。それでは購入する側にも迷いが伝染する。店員とお客様は鏡のように映る。
「はぁ……」
だが、それなら別にここに来なくても。そんな納得のいかない声をジェイドは捻り出した。
そしてここで少し話に動きを入れるワンディ。背後で縮こまったエディットを前に押し出す。
「じゃあ、今まさにハートブレイクしたお客様がこちらにいらっしゃるわけですが、クロエならどうする? なにを選ぶ?」
どんなショコラを提供する? シチュエーションに合ったショコラの選択を聞かれるのは、ショコラトリーではよくあること。お祝い、夜用、子供のおやつ、様々な状況に合ったものを。今回は、落ち込んだ大学生。時間は一〇分、始めぃ!




