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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
チャールズ・チャップリン
117/317

117話

「——というわけなんだよ、まさかそんな返し方があるとはね」


 説明し終えると腕を組み、大きく頷きながらジェイドは奥歯を噛み締めた。途中まではよかった。いや、違う。最初が間違えていた。それ以外はよかった。テーマに対する知識がなかった。自分のミス。


「……」


 心ここにあらず、という無気力さでオードは夜空を見上げた。鳥が飛んでいる。あの鳥はなんていう名前だろう。いいな、自由で。人類が空に憧れるのは、元々、空を飛んでいたからだ、というのをどこかで聞いたことがある。空には肖像権とかないんだろうな。


 チラチラとそのオードの状況を確認しつつ、バツが悪そうにジェイドは場を和ませようとする。


「いやはや、すまないね。ドンマイドンマイ。どうなるかはわからないが、もしダメだったら——」


「いいわよ、別に」


 感情の感じられない声色のオードは、そのまま目線をずらさない。空を追いかける。


 その横にジェイドは移動し、同じように壁に背中を預けた。


「……すまないね」


 目を閉じて息を吐く。またも結果は出せず。よくて利益の出ない『見本』。になれば御の字。集客に繋がればいいけど。これを通して、もっとオードと仲良くなれると思った。


「ねぇ、オード、次こそは——」

 

「次、作るんでしょ。次のも面白そうだったら一枚噛んでやるわ」


 あえて目は見ない。恥ずかしいから。オードは少しドキドキしつつも、表情だけは変えない。変えてやらない。


「——え?」


 絶対に巻き返し不可能なところまで来てしまった、と考えていたジェイドは、状況を理解するのに数秒要した。


 ようやく決心がつき、オードは視線を合わせる。

 

「なによ、なんの策もないの? それはあんたの仕事よ、ジェイド」


 そして素早く外し、前を見据えた。前。未来。


 呆けつつも、ジェイドは意識を取り戻す。一瞬、なにが起きたのかわからなかったが、少しずつ追いついてくる。


「そう……言ってもらえると助かるけど……いいのかい? それと今、名前——」


「なんかアテ、あんの?」


 ふとした違和感に気づいたジェイドを遮るように、オードは問いを被せた。さっきのは忘れてほしい、という気持ちもある。いや、忘れろ。


 その気持ちに気づき、満面の笑みになり変わったジェイドは、これからの予定について発信する。


「……んー、よくぞ聞いてくれたね! 実は『オードリー・ヘプバーン』をテーマに——」


「おい」


 たった今、似たような失敗をしたばかりなのに、同じ轍を踏もうとしている友人に、オードはキツくツッコんだ。そしてそのまま歩き出すと、後ろから友人がついてくる。


 もうすぐ夜のパリではマルシェ・ドゥ・ノエル、つまりクリスマスマーケットが始まる。その前段階の匂いがする。少しずつ増える電球。その灯りの温もりを肌で感じながら、ジェイドは、とある一文を思い出す。


『次の一歩、次の呼吸のことだけを考える』


 ミヒャエル・エンデ、『モモ』。先のことはわからない。だから、今のことだけ、今、この時間だけ。

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