表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
チャールズ・チャップリン
116/317

116話

「……それでこの商品なんだけど……」


 手渡されたショコラを、大事に手のひらで包んだワンディは、じっくりと言葉を選んで次の句に進む。


「……たぶんダメなんじゃないかなぁ……」


 無慈悲な現実を叩きつける。少し言いにくそうに、周りを確認した。


「……え?」


 なんとなくだが、イケる感覚はしていた。少なくとも、ワンディの問いには答えられた。ゆえの、オーナーの行きまで確定、だったはず。


 その理由を言いづらそうに、ワンディが説明する。

 

「……いや、閃きは素晴らしい。 『音楽』をテーマにしたショコラ。新しい。でもチャップリンてさ、実は著作権とか商標登録とか、そういうのに結構厳しいんだよね……チャップリン家が肖像権を持ってるから、許可がもらえれば、になるんだけど……」


 実際、チャップリンのイメージや写真、音楽からシルエット、コスチュームなどに至るまで、全て世界各国の会社が保有しており、許可や許諾が必要になる。どこからが大丈夫で、どこからがダメなのかの線も曖昧で、確実に売り出せるかはわからない。


 寝耳に水。ドクン、と心臓が鳴るのを、ジェイドは肌で感じる。


「……厳しい……です……か?」


 思ってもいない伏兵の登場に、動揺が走る。言われてみれば、たしかにどんなものでも可能にしていては、小さな個人商店でも名前を使ってしまうことができる。本当か嘘かなど関係なしに。


 確定ではないし、交渉次第ではあるが、となるとオーナーの仕事になる。今ですらワールドチョコレートマスターズを始めとする、国際大会の審査員を引き受けるなど多忙な中、どれだけの時間がかかってしまうだろうか。ワンディが危惧する。


「約束だから、一応は伝えてみる。なんとも言えないけど、それが直接的な利益を生むってなると、どうなんだろう。イメージを崩しているわけじゃないから、頑張れば……もしかしたら……」


 可能性としては充分にある。ただ、今すぐにはできない。春という季節も過ぎてしまうかもしれない。そうなると、桜というモチーフ上、またしばらくは発表しづらくなるだろう。


「……」


 かける言葉が見つからず、盛り上げるだけ盛り上げてしまったワンディは負い目を感じた。


「……ちょっと、深呼吸していいですか?」


 昂った気持ちを抑える意味でも、少し気を落ち着けようとするジェイド。オーナーからダメだしされることは覚悟していた。当然、店の商品として売るわけだから。だが、その手前で待ったがかけられた。


 気持ちをなんとなく察したワンディも「え、あぁ……」と、返すのみ。プロの世界だから仕方ないが、なんかとても悪いことをしてしまった気がする。


 ひとつ息を吐き、ジェイドは気持ちを入れ替えた。

 

「よし、帰ります」


 審査に感謝し、一旦帰宅する。少し色々と考えたい。


「うん、なんかごめんね……気をつけて……」


「いえ、それでは」


 見送るワンディの視線が、寂しそうな少女の背中に刺さる。


 それを実感したジェイドは、足早に出入り口のドアへ。出る前に少し立ち止まり、一考する。


「さて。オードにはどう説明したものかね」


 気が重い。今回は特に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ