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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
チャールズ・チャップリン
112/318

112話

 マノワール・ド・バン。チャップリンが最後の二五年間を過ごした、新古典主義の建築物であり、時がゆっくり進む私邸。庭には樹齢一〇〇年を超える桜や杉、りんごなどの木が生い茂り、森のようになっている。


 それを確認すると、ワンディの脳裏にとある言葉が蘇った。


「『花は、地球の唇から音もなく生まれる大地の音楽』。彼ならなにか感じ取っていたのかもね」


 作曲家としても大成していたチャップリン。その活躍にもしかしたら、花という存在が陰にあるのかもしれない。そんな印象を受けた。


 ジェイドもその意見に同調する。


「エドウィン・カランの言葉ですね。だからこそ、チャップリンの音楽の終着点は、これ以外思いつきませんでした」


 花と音楽。一見すると全く違う両者だが、見えない部分で繋がっている。音楽を突き詰めれば花になり、花を突き詰めれば音になる。そして、音は味でもある。なら、ここには今、『音』がある。


「それで、この上蓋は……」


 本題に入りたいワンディは、蓋に手をかける。開いた中にはなにがあるのか。掴みはよかった。ならばこそ、中身は一体。


「はい、それを開けてもらうと……」


 ジェイドが開封を促すと、ゆっくりワンディは蓋を上に外す。すると、中にねじるように折りたたまれていた薄桃色の和紙が、蓋という抑えを無くして広がりを見せる。それはまるで。


「……花のように開くわけか。演出も憎いね」


 蓋だと思っていたものは、実は蕾。桜が開花する。


「ありがとうございます。友人に全て任せましたが、期待以上に仕上げてくれました」


 チャップリンというテーマから、まさかオードが桜をイメージするとは。正直、ジェイドは決めかねていたが、これ以上にないチョイスだと決定。


 そしてその開いた花弁の中心。そこにワンディは目をつける。


「中には……花びらが三枚。そして土台のこれは——」


「モデラージュです。せっかく練習したので」


 ロシュディに言われたことも、ジェイドは忘れない。とはいえ、何個も組み合わせるような上級の技はできないので、最低限のものになってしまうが。


 木目は板のショコラにブラシで傷を入れ、さらに溶かしたミルクショコラを塗る。そして仕上げはエアブラシで、カカオバターに色粉を溶かしたものを。これで艶を出す。


 まじまじと土台を見て、うん、とひとつワンディは頷く。

 

「ワールドチョコレートマスターズでも使われる技法だね。どこでこれを?」


 まだこの技術は教わっていないと考えていた。しかし、見事に再現できている。過程で余分なショコラをしっかりと取り除いている証拠。誰がこれを教えたのだろう。

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