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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
チャールズ・チャップリン
109/318

109話

「リキュールの『女王』」


 その後、紆余曲折がありつつも、なんとか解答までの道筋が開かれたジェイドとオード。スッキリしたが、同時に疲れた。二度目はないようにお願いしたい。とりあえず、エリキシル・ヴェジタルは女王らしいという結論。


「てことはなに? アンタに女王になれって? もうすでにそんな感じの鼻っ柱してるけど」


 茶化しつつ、オードはひとまず解けたことに安心した。しかし、ショコラの染み込んだ角砂糖から、えらいところまできたものだ。女王て。ん? 巡り巡って結局、女王ってことは、アントワネットのこと?


「もしくは、みんなを元気づけるようなショコラを作れ、ってことなのかもね。霊薬だし」


 だが、そもそも元気づけるような、なんて昔はカカオは薬だったんだし、元々の役割じゃないかと、ジェイドは不審に思う。


「「……」」


 その結果、二人は顔を見合わせる。


「……えーと、もしかして……」


「……たぶん、そうだね」


 導き出される結論。


「もしかして……元に戻ってきた?」


 苦笑いしながら、オードが気づいてしまう。


 困ったり迷ったりしたら、『原点に立ち返ること』。それがワンディの教え。


「……なんだったのよ、ここ数日のモヤモヤは」


 モヤモヤどころか、それを通り越してオードはムカムカしてきた。こんなことある? ベッドに寝転がって不貞腐れる。


「まぁ、色々考えたりして楽しかったから、私はいい経験になったと思うよ。ショコラの意味とか、深く考えたことなんてなかったし」


 わざわざ三区まで行ったり、色んな人を巻き込んでしまったが、結果的に知り合いも増えたし、とジェイドは肯定的に捉えた。


 ただ、オードはまだ立ち直れそうにない。


「あーそう。とりあえず、わかったことだし、さっさと行ってくれば? 本当に約束守ってくれるなら、商品化するかもしんないんでしょ?」


「あぁ。だけどまだ完成じゃない。今日は持っていけない」


 まだ八割ほど。あとの二割。さて、どうしたものか。ジェイドはちらちらと視線を送る。


「期限は明日なんでしょ? そんなギリギリで大丈夫?」


 だがそのサインに気付きながらも、オードはわざと見逃す。なんとなく、いや、言いたいことはわかっているのだが、なんかムカつくから。


 痺れを切らしたジェイドが、単刀直入に切り込む。


「大丈夫。オードなら一日でできる。ハズ」


 いつものアレ。


「……はぁ?」


 いや、わかってたけど。あからさまに嫌な顔をしつつ、一応オードは聞き返してみる。


 イスから立ち上がり、芝居がかった足取りでジェイドは室内を闊歩。まるでオペラのように勢いよく振り返り、手を広げてアピールする。


「だから、カルトナージュだよ。もうショコラはだいたい完成しているんだけどね、箱がまだなんだ。まさか、ショコラを裸で持ってけ、なんて言わないよね」


「言うわよ。持ってけ」


 無慈悲にも、オードは冷たく突き放す。これが最後の抵抗。もし、それでも必要とするなら。


 当然のように無視するジェイドは、最後のお願い。これでもし断られるようなら。その時は。


「テーマは『チャップリン』。これはオードじゃなきゃダメなんだ」


「……」


 目を瞑り、脳内で様々なものをオードは想像する。そしてひと言。


「……チャップリン」


 ひとつだけ、作ってみたいものがある。彼が今も眠る場所。あの映画での印象的なシーン。窓から見える、あの。


「……ショコラは何粒入り?」


 オードは確認を取る。それ次第だ。だがもし、想定内であれば。


「……浮かんだ? 三だよ」


 このテーマではこれ以外にあり得ない。『スマイル』。ジェイドは今一度、脳内で音楽を鳴らす。


「ははっ」


 肯定も否定もせず、ただ、オードは笑った。

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