105話
ここまで来てしまっている時点で、言い訳をするつもりはオードもない。というかできない。
「……わかったわよ。あたしも途中まで。いいところまではいったけど、そこで終わり。結局わからなかった」
「まぁ、とりあえず話してみてよ。一緒に考えればなにかわかるかも」
どんな些細な情報でも、なにかの取っ掛かりになるかもしれない。一言一句逃さないよう、ジェイドは集中力を高める。
ひとつため息を吐いたあと、ポツリポツリとオードは囁き出す。
「……あたしが思ったのは。おそらくマリーは、マリー・アントワネットのことではない、ということ」
言った。言ってしまった。さぁ、ここまできたらなんとかして解き明かさねば。
意外、というような驚きをジェイドは顔で表現する。
「ほう? どうして?」
唇を舐めて、貪欲に情報を欲しがる素振り。自分にはなかった閃き。
その根拠をオードは羅列する。あまり先頭に立って論じるのは得意ではないため、少し緊張。いや、なんでここで。
「まず、『アントワネットとは言っていなかった』ってところから考えてみて、その頃は同じような名前が多かったことに気づいた。てことは、なにか砂糖と縁のあるマリーがいれば、大ヒントだと」
「たしかに。言っていなかったね。なるほど、私は少し自分の作品に囚われすぎていたようだ。その考えはなかった。それでどうだった?」
それは、様々な可能性を拾い上げていったジェイドにとって、取りこぼした盲点でもあった。
しかし、急速にオードの声の張りが萎んでいく。
「……だれもいなかった。というか、この頃はみんな、砂糖だのミルクだのを混ぜていたから、決定的な人物が浮かび上がらなかったって感じ。以上、終わったわ」
短く、水割りのような薄い結末だが、ここいらがオードの脳の容量のマックス。結局複雑にしただけかもしれないので、あまり言いたくはなかった。
絡み合ったワードの端尾を繋ぎ合わせようと、ジェイドが奮闘するも、触れ合った途端にバチっとショートしてしまう。その閃光の中に答えがない。
「……その他にひっかかったワードはなにか、あったりしなかった? 私は『薬』が気になったね。元々は薬として飲まれていた」
もうこうなれば、なんでもかんでも引き出しから出し合う。ヒントは多ければ多いほどいい。なにか合うものがあるかもしれない。若干ヤケになる。
「それはあたしも。それと、『神父と修道士』ってのが。なんか砂糖とは無縁、とまではいかないけど、普通なら素材そのものの味で食べているような気がして」
ただ国王にカカオを紹介しただけなので、素っ頓狂なことを言っているのかもしれないが、体裁など今のオードは気にしない。答えが見つかればいい。過程がどうでも。




