104話
「気づかないかい? ダコワーズとマカロンの話。要は『同じものでも、ほんの少しだけ調理の仕方を変えろ』と言っているようだ。ということは、なにか違うものを染み込ませていた、そう捉えられないか?」
そもそもがダコワーズとマカロンの話は、ヒントになっていたのかわからない。ただの会話のネタの可能性もある。だが、様々な可能性は吟味するしかない。その視点から穴を空けてみる。
「そう……なのかな。そう?」
ずっとショコラだと考えてきたため、オードはうまく飲み込めない。とりあえずそのまま会話を続行する。
「そう捉えてみたよ私は。合っているかはわからない。そしてその液体。おそらく酒だ」
確実な証拠があるわけではない。可能性が高いだけなので、ここからは推測になるよ、とジェイドは前置きする。
その想定でオードも考えてみる。たしかにそういうものがあることは、自分も知っている。
「酒? ラム酒とか? ショコラに使うこともあるし」
「いや、ラム酒はすでにサトウキビが原料となっている。そこにさらに角砂糖を合わせるとは思えない。なにか甘味を抑えた酒だ。おそらくね」
ラム酒はたしかに、ショコラ以外にもケーキやタルトなどの焼き菓子に、風味をつけるために使用されることもある。そのため可能性はあったが、角砂糖との相性を考えた時、しっくりこないとジェイドは否定した。
少しずつだが、たしかに謎を解いている感覚をオードも実感する。そう考えると、いずれは答えにたどり着けそうだ。
「なるほど。それなら少しずつ齧ったり、舐めてゆっくり味わうことができる。アリかもね。で、それから?」
さらに核心に迫るため、情報を引き出そうとする。しかし。
「それだけ」
くー、っと悔しそうにジェイドは机をバンバンと叩いた。
「……は?」
「いいところまではきたんだけどね。そこで終わり。ここまでだ。さっぱりわからない」
おあずけをくらって呆然とするオードと、降参するジェイド。目線が合うが、お互いに同じタイミングで逸らす。
「……はぁ……」
実はコイツはなんだかんだで解き終わってる、と心のどこかで考えていたオードは、目に見えて落胆した。なんでこんなことを思ったのか。
続いて、選手交代とばかりに、ジェイドは話の主導を相棒に移す。
「そっちは? なにかしら考えてたんだろう?」
連絡の返信が早かったことから、待っていたのではないか、と推測する。普段ならもっと遅く返ってくるはず。さて、どうでるか。
問われたオードは、慌てた様子で否定する。
「いや、あたしは別に——」
「力を合わせたほうが、ここまできたのならいいと思うけどね。どうする?」
煮え切らないオードを引き込もうと、ジェイドは協力の申請をした。持ち寄った情報のピースがもしかしたら、うまくハマって絵の全体像が見えるかもしれない。




