103話
オードが呼び出された場所は、まさに友人の集まる場所である『自宅』。自宅といってもジェイドの暮らす寮。どこかのカフェで、と考えていたオードは、気が乗らず一度は拒否したが、押し切られ今に至る。
「で。どうなの?」
寮に入ったのは初めて。行く機会もないと思っていた。入り口で警備員にチェックされるなんて。緊張で不自然な言動をしていたかもしれない、と思い返す。
一応、二人部屋らしいが、もうひとりは入寮してくるのが一二月かららしく、実質現在はひとり部屋。ダブルベッドの下段にオードは腰掛けた。対してジェイドは、勉強机なのか、壁に面した備え付けのイスに座る。
進捗状況を聞かれたジェイドは開口一番、
「はっはっは」
と、とりあえずお茶を濁す。決定的な決め手がないので、自分から集まろうと提案したが、少しもどかしい気持ちはある。さてと、どうしたものか。
それに対して、少し舞い上がり気味のオードが場をピリつかせる。
「笑って誤魔化そうとしてんじゃないわよ。これはそもそもアンタが持ってきた課題なんだから」
結局、あのあとも少し考えてみたが、点と点が繋がらず、答えを見出せないまま、ここまで来てしまっていた。ジェイドも解けていないようで、先を越されていない安心感と、答えのわからない不安感が混じる。
「わかっている。いいところまできている。はず。なんだが、なんとしても最後がね。まいったまいった。はっはっは」
笑いつつも、「……はぁ」とため息をついて、ジェイドは意気消沈する。
その頼りなさそうな姿を、オードは別に責めるつもりもない。どうでもいい。そう、どうでもいいのだ。
「……ちなみに、どんなとこまでわかったの?」
一応、聞いてみる。そのつもりで来たので、なにか情報交換できるものがあればいいのだが。
「ん? 興味あるのかい?」
意外だね、とでも言いたそうな勝ち誇った顔で、ジェイドはオードを見定める。
しかし、毒気のない表情で、オードは軽くいなす。興味のないフリ。
「聞くだけ。あたしはそんな頭よくないから、なにがどうなのかわかんないけど。聞くだけ」
役に立つとは思えないが、多ければ多いほどいいだろう。
「へぇ……」
「なによ」
心まで探ってくるようなジェイドの眼力を、オードは払い除ける。読まれているのかもしれないが、抵抗だけはする。
素直じゃない相棒の心境を探りつつも、ジェイドは話題を戻す。
「別に。そうだね、今のところは、砂糖に染み込ませるもの。それは元々ショコラではなかった、というところまではわかった」
真剣な表情に変わり、ここからは討議に入る。
「なんでそう思うの?」
なにそれ、と自分にはなかった思考にオードは惑う。ショコラじゃ、ない?




