101話
「——とか考えてるだろうけど、無理。わっかんない」
なんとなく、ジェイドが自分に考えるように仕向けている気がして、オードは即座に目の前を振り払う。考えることは元々、そんなに得意じゃない。
電気を消し、無音の中。集中すれば、なにか目の奥から映像が染み出してくるかもしれない。なんてことはない。
「あーもう、やめやめ。考えても無駄」
自室のベッドに横たわりながら、見ていた携帯を滑り落とす。鎖骨あたりでバウンドしたそれは、顔の左側に着地。そのまま目を閉じて眠りにつくことにする。時刻は二三時。もう寝る時間だ。
「……」
瞼の裏では、真っ暗な中で薄いネオンカラーの緑がグニャグニャと動く。これはなんなんだろう。正式名称はありそうだが、調べるほど気にもならない。
「……」
寝る前に見るのは、深い眠りによくないとわかってはいるが、もう一度携帯で検索してしまう。
「……元々はコロンブスがヨーロッパ人として、カカオを最初に見つけたの。ていうか、コロンブスってイタリア人だったんだ」
気づいたら、ショコラの起源や世界での流れを調べていた。コロンブスはスペインあたりの人だと思っていたが、イタリアだというのも勉強になった。
「……ん? イタリア?」
なんだっけ。どこかで最近聞いた気がする。そのまま続きを読む。
「んで、広めたのはスペイン人のコルテスや、付き添いの神父や修道士。薬として、ねぇ」
最初にカカオというものを認識したのはコロンブスだが、その後に国王なんかに献上したのは違う人々。その価値に気づいて、色々あってメキシコからスペインへ輸入しだした、と。
「……修道士」
なぜだろう。修道士という存在が気になる。修道士はなんとなく、嗜好品などは好まない、質素倹約な生活を送っているような気がしていたからだ。甘さなどもってのほか、というわけではないのだろうか。今の時代の修道士は、肉とか食べるのかな。神父は裏でやってそう。
「そんでルイ一三世が、スペイン王女のアナ・マリーア・マウリシアと結婚して、フランスにカカオが来たってこと」
一連の流れはわかった。だが、どこにも砂糖の話なんかは載っていない。カカオだけだと苦いだろう。
ふと。
「……マリーア……マリー……マリー?」
口に出して王女の名前を呼んでみると、これまた引っかかる。マリー、この人もマリーっちゃマリーなのでは? うん、マリーだわ。
「……うん?」
……あれ、なんかきた、かも。
ハッ、として飛び起きる。




