100話
約三五平米の大きさの二人部屋。それが寮における一般的な部屋の大きさ。それはジェイドも例に漏れず、キッチンやひと通りの家電なども揃っているため、ここでショコラを作り、日々腕を磨く。
「チャップリンのほうのショコラも煮詰めたいのに、困ったね」
リビングの隣の部屋、『コ』の字型に人工大理石を使用したワークトップ。メインとなる正面にはシートを敷き、いつでもショコラを作れるように準備万端。だが、そこからジェイドは動けずいる。
「しかし、なぜワンディさんはこんなことをしだしたのだろうか」
なにか意味があるからやっているはず。ということは、クイズの答えよりも、なにか伝えたいことがあるからこそ。それさえわかれば、と過程をショートカットしようかと思ったのだが、そこにもたどり着かない。
なんだかんだ言って、オードも考えてくれているのではないだろうか。彼女にもメリットはある。しかし、やらねばならないのは自分。
「イタリア、フランス……うーん、なにが違うんだろう」
洗濯物は外に干しちゃいけない、とか都市部で共通点はあるだろうけど。だが自分はベルギー人。どちらでもない。ベルギーもダメだけど。きっと、ちょっとした違いで全く違うものになる、ということを言いたいのだろうか。
「わかる人はわかる、ということは、すでになにかに答えは記されている。はず。なんだ……?」
ショコラ。その歴史。足元のフロアキャビネットを開き、そこからショコラに関する本を取り出して読む。ここに込められた、ワンディの想い。
「……元々は、不老長寿の薬……」
ショコラの原料となるカカオは、かつては『神の食べ物』と呼ばれるほどの貴重品。一六世紀になり、スパイスや香料を混ぜて『不老長寿の薬』として飲んでいた。そして今は『嗜好品』に分類されているそうだ。
「……薬……」
なぜだろう。ジェイドにはそこが引っかかる。だが、どうしてもマリー・アントワネットにたどり着かない。薬剤師に、薬を包んだショコラを開発させたというのは聞いたことがあるが、それはただの点としての知識。線として繋がらない。角砂糖も出てこない。
砂糖にショコラを染み込ませてみる。なにかを例えているのなら、ショコラではない、違うなにかを砂糖に? 液体。ジュースではないだろう、すでに多分に砂糖が入っている。ならば液体とは……酒? 酒を砂糖に染み込ませる? あるかもしれない。が、まとまらない。何種類あるんだ。
「……一度、オードと擦り合わせてみるか……」
自分は凡人。誰かの助けがないとなにも生み出せない。甘えに甘えまくって、自分のメリットだけ考える。そんな人物だ。自分は。
必死かはわからないが、きっと彼女なら。なんだかんだで考えてくれているはずだ。




