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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
マリー・アントワネット
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1話

 元々、それは蚕を入れる箱を装飾したところから始まった、と伝えられている。または、かの高名なナポレオンが、妻のジョセフィーヌに宝石をプレゼントする際、その箱も装飾してしまおう、と考えたところから始まった、とも伝えられている。はたまた、そのどちらも違うのかもしれない。当時の人間などもう、生きていないのだから。


 それは、決して主役にはならないわけで。ただ主役を引き立てるために存在しているようなもの。中身をより豪華に、煌びやかに、絢爛にするために。そんな引き立て役となってしまう装飾。だが、ナポレオンが「なんとなく」で行った装飾は今や、中身よりも重宝されることもある。


 フランス、パリの七区、フォーブールサンジェルマン界隈にひっそりと鎮座する、歴史あるショコラ店。そこの一番の売りは、あのマリー・アントワネットも好んだといわれるショコラだ。あの悪名高き女王は、薬が苦くて飲めないからショコラにしろ、と当時の薬剤師に注文をつけた。もちろん無理と言えば処刑される。そこで彼は、ウィーンのホットショコラをヒントに、薬を包み込んだショコラを開発したのだ。


 今現在、薬の入ったショコラは売っていない。しかし、マリー・アントワネットをモチーフにしたショコラは世界的に有名となり、ショーウィンドウには看板商品として掲示されている。パリに旅行に来て、ここを目当てとしているお客は、それらを背景に写真を撮るのが一般的だ。店内ではショコラは普通に買える。


 もちろん、有名店に来た記念もあるだろう、しかし、それ以上に、展示物で有名なのは、その『箱』なのだ。ジャカード織りの高級感溢れる、柔らかなクッションのような生地が使われているその箱は非売品。職人の手による一点もののため、買おうにも値段がつけられない。マリー・アントワネットのショコラ以外にも、お店の売れ筋商品が、エレガントかつ貴族感溢れる箱に入れられ、口を開けて並べられているのだ。


 その装飾には『カルトナージュ』という名前が付けられている。今や世界中で、安価で、布や生地さえあればできることも相まって広まっており、教室まで開かれている。その本場、パリではカルトナージュ専門店も存在するほどだ。


「いつか、ウチみたいな小さい店にも依頼、来たりするのかな……」


 歴史あるショコラ店のカルトナージュをガラス越しに見つめながら、少女はボソッとつぶやいた。が、すぐにハッとなって否定する。


「いやいや、来たりするのかな、じゃなくて、勝ち取らなきゃ。絶対」


 私にもできる、と自信を持って決意し、その場から離れようと数歩歩くが、止まり、もう一度元の場所へ。屈んで、じっと同じものを凝視する。


「うーん……でもやっぱりきれいだわ……」


 じっくりと、もう一度見てみる。その他の箱を見ても、ゴブラン織りの箱や、かけられているリボンも相まって、エレガントさと可愛らしさが両立している。


 見惚れるようにしばらく見ていたが、だんだん顔が顰めっ面になり、最終的には「あー!」と叫びながら起立する。


「いや、これくらい私にもできるから! ね!?」


 と、背後を通りかかった老人に訴えかける。


「いや、キミだれ?」


 と、至極真っ当な返しをされ、少女はキョトンとした。


「あたし? 世界一のカルトナージュ職人。の予定」

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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