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54話


 ってことは、ディーンとバーナードはそういう考え方……? と疑うような視線を向けると、わたしの疑問を感じ取ったのかイヤそうに顔を歪めた。……すごいな、バーナード、もしかしてエスパー? なんて考えていると、思いっきりため息を吐かれた。


「コボルトのところに行くなら、陛下に許可をもらってからにしろよ」

「もちろん!」


 そうしてわたしとバーナードは、色々なことを話しながら屋敷の中をうろうろと歩いた。


☆☆☆


 ……そして、ディナーの時間になると、ディーンとバーナードに連れられて陛下の元に向かった。……ええ、ドレスにハイヒール再び。歩きづらいことこの上ない! 心配そうなディーンに、「いい加減諦めよ……」と呆れ顔のバーナード。まさか聖職者のローブと靴のほうが歩きやすいと思う日が来るとはね……。だってあれはコルセットなんて使わないし、ハイヒールなんて履かないもの!


 私服の見直しを要求したい! なんでドレスってこんなに歩きづらいの……!


 陛下の元に辿り着く頃には、すっかり疲れ果ててしまった。……この格好で出歩くの、やめたい。ディーンとバーナードと一緒だからか、視線も感じるしね。この視線は多分、『あの女、誰?』みたいな感じ……。……いや、わからないけれど……。ディーンもバーナードも顔が良いからねぇ……。でもどうせならわたしはコボルトと一緒に歩きたいなぁ。手を繋いで肉球を堪能するの。名案では?


 現実逃避のようにそう考えていると、料理が運ばれてきた。陛下はちらりとディーンたちに視線を向ける。強い視線ですいと扉へ視線を動かす。すっとディーンたちが頭を下げて、扉の外へと。出ていけ、と伝えていたらしい。


 ルーカス陛下に手招きされて、近くの椅子に座る。料理はずらりと並んでいた。


「話に集中したいからな」


 聞いてもいないのに答えをくれた。ちょっと楽しそうに見える。……ルーカス陛下、本当にわたしとのディナーを楽しみにしてくれていたんだな、と思うと、なんだか心の中がぽかぽかした。だって、一緒に食事を楽しみたいと思ってくれていたんでしょ? わたしがリラックス出来るように、ふたりだけにしてくれたし。……みんなで一緒に食べるのは良いのだけど、見られながら食べるのはちょっと……ね。


「ええと、お招きありがとうございます……?」


 こんなことをいうんだっけ? と、なんだか疑問系になってしまった。ルーカス陛下は、目を一度瞬かせ、それから肩をすくめた。


「かしこまらなくて良い。アクアは身内だ」

「……そう、ですか?」

「敬語もなし」


 それはまずいのでは……? と窺うように視線を向けると、妥協案として「ふたりの時は」と付け足した。……ふたりの時なら良い……のかな? わからない。こういう時ってどう反応するのが正解なんだろう。……いや、正解も不正解もないか。


「……不敬罪になりません?」

「私がそうして欲しいと言っているのだから」


 くすっと優しい表情で笑うルーカス陛下に、そうだよね、と心の中で呟く。それなら、まぁ、良いかな! と即決した。


「……それでは、食べようか」

「はい!」


 元気に返事をして食事を楽しむ。美味しい。使っている食材もきっと最高級のものなんだろうなぁと思いながら、パクパク食べていると、ルーカス陛下の視線を感じた。微笑ましそうに見ているので、首を傾げてみると、ルーカス陛下もパクパク食べ始めた。……わたしが食べているところなんて見ても、楽しくないのでは……? なんて考えつつ、デザートまできっちりと食べた。美味しかった。食後のお茶が運ばれてきて、お茶で喉を潤す。

 お茶を淹れた人も、一礼すると出て行った。


「――さて、私にお願いがあるようだが、なにを願う?」

「あ、えーっと、コボルトたちの様子を見たいなって。あと、ダラム王国の平民たちのことも」


 ダメ? とじっと見つめる。ルーカス陛下はたっぷりと沈黙してから、「護衛をつけるなら」と許可をくれた。わたしがぱぁっと表情を明るくすると、小さくこほんと咳払いをして、わたしを見る。


「……ダラム王国の平民たちは、別の場所に移動している途中だ。王都から離れた場所だが、彼らは全員、国に帰ることを拒否した」

「えっ」


 ひとりくらいは国に帰りたいという人がいるかと思っていた。本当にこの国で暮らしていくことを選んだのか……と考えていると、ルーカス陛下が言葉を続けた。


「『聖女さまが助けに来てくれたから、この国に住みます』だそうだ。それと、『ありがとうございました』を伝えて欲しいと言われた」


 ……わたしが助けに来たから、この国に住む? お礼をいわれることではない、と思う。目を瞬かせると、ルーカス陛下は笑みを深めた。


「ダラム王国の貴族たちは、平民たちをかなり苦しめていたらしい。そんな中でも、『聖女』をはじめとする神殿の者たちは、平民たちに寄り添ってくれたと。この国で最初からやり直すそうだ」

「……そっか。まぁ、みんながそう決めたのなら……。あれ、じゃあダラム王国の街はどうするの?」

「王都を移す。神殿を中心とした街にするつもりだ。その街の名を、リネットと名付けようか?」

「絶対やめてくださいお願いします」


 早口言葉のようにそういうと、ルーカス陛下はくっくっくと肩を震わせて笑った。もしかして、ルーカス陛下の冗談だったんだろうか。真顔でいわれると冗談なのか違うのかわからないわ!


 ま、とりあえず許可を取ったから明日早速、コボルトたちに会いに行こうっと。そう心に決めた。平民たちに会いに行くのは、もう少し時間を置いてからにしたほうが良いとルーカス陛下に助言された。……そうね、落ち着かないままっていうのもアレだし……。


「気を付けて行っておいで」

「はーい!」


 そんな会話をして、その日のディナーは終わった。

 ……あれ、わたしに貴族の教育を受けさせるとか、そういう話はしなかったな、と後から思った。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪

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