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32話


「さて、アクア。この屋敷はどうだった?」

「とっても気に入ったわ! 空気が澄んでいるのが一番良いポイントだと思うの!」


 ディーンの問いに、わたしは目をキラキラと輝かせながら言った。だって本当に瘴気なんて受け付けないような空気の澄み具合。ああ、なんて良い場所なのかしら……! わたしが帝都全体の瘴気を払ったからここもそうなったというわけではないと思うの。……それに、どうしてかしら、ここにいると心が落ち着く気がするの……。不思議だわ。


「それじゃあ、陛下にこの屋敷に住むって伝えて来るね」

「え、そんなにすぐに?」

「善は急げってね」


 ぱちんとウインクをしてディーンがこの屋敷から陛下の元へと向かった。残されたのはわたしとバーナードだけだ。バーナードはわたしに視線を向けると、じっと見つめてきた。


「な、なに?」

「……いや、なんでお前がそんなに神に好かれているのかと……」

「……それはわたしが知りたいっ!」


 大聖女、ステラの孫だから……という可能性はあるだろうけれど、本当にどうしてこんなに神はわたしに良くしてくれるんだろう。もしかしたら、大聖女ステラが神になって孫のわたしを気にかけているのかもしれないよね。

 神になるのにはどうすればいいのかわからないけれど……。


「ここに住むなら、ディーンとバーナードは護衛決定ってこと?」

「そうなるな」

「……ほんっとうに良いのね?」

「給料良いからな」


 ……騎士団の給料が気になって来たぞ……。でも、そこまで聞くのはなんか違うような気がするし……。……あれ、でもこの場合わたしの護衛になるのだから、わたしが給料を払うの? ……最初の数ヶ月は公爵家からもらった金貨でなんとかなるだろうけれど、その後は……? わたし、やっぱり一刻も早く次の職業を見つけないといけないんじゃ……!?


「百面相」

「……だって、わたし……どのくらいあなたたちに給料を渡せば良いのかわからないのだもの」

「……は?」


 呆れたような、驚いたようなバーナードの声に、わたしは目を瞬かせた。


「……護衛の給料はお前が払うわけじゃないぞ?」

「え、そうなの? じゃあ誰が――」

「厳密にいえばお前から、になるかもしれないが」

「ど、どういうこと!?」


 混乱しながらもバーナードに尋ねる。バーナードは丁寧に教えてくれた。国からわたしに『お小遣い』が渡されるらしい。……お小遣いの金額じゃない予感がする。……そして国からってどういうことよ。さらに混乱していると、バーナードが肩をすくめた。


「王族なんだから当然の権利だろ」

「いやいやいや! お金は人を狂わせるのよ!?」


 ギャンブルにはまって抜け出せなくなった人たちを知っている。それくらい大金は人を狂わせるのだ。


「……確かに大金は人を狂わせるだろうけど、使わないと循環もしないだろ……貯めていくつもりか?」

「……貯金なんてしたことがないわ……」


 お小遣いもらったこともないし。大体必要な経費は陛下にお願いしていたし。……中々渡してもらえなかったけど……、ああ、こういうところでも怒りがふつふつと……。


「顔が怖い」

「乙女になんてことを言うのよ!」


 そんな会話をしていると、ディーンが戻って来た。その表情はどこか焦っているように見えた。


「ど、どうしたの?」

「ダラム王国の結界が……破れた」

「……え?」


 おかしい、まだ時間の猶予はあるはず――……まさか、神殿の魔法陣をそのままにしていたの!?


「どういうことだ? まだ時間あるって言っていなかったか?」

「……どうして……」


 あの時、魔法陣に血が落ちた。その魔法陣をそのままにしていたとしたら――結界は確かに破れるだろう。……どうして、司祭も、神官たちも魔法陣に適切な処置をしなかったの……? わたしはぐっと拳に力を入れて、それから――深呼吸を数回繰り返し、バシッと両手で顔を叩いた。


「あ、アクア?」

「なにして――……」

「ディーン、バーナード、陛下に会わせて!」


 わたしの形相にふたりは目を大きく見開いた。けれど、すぐにディーンはこくりとうなずいて、バーナードも「まぁ、仕方ないか」と呟く。陛下の元に行く前に、ハイヒールを脱ごうとしたら止められた。

 代わりに、一言「ごめん」と口にして、ディーンがわたしを抱き上げた!


「うわぁっ!」

「このまま陛下の元に向かうよ、バーナード」

「ああ、行こう、ディーン」


 掴まっていてね、と言われたのでぎゅっとディーンの服を掴んだ。そして――神の祝福を受けたからなのか、かなりの素早さで屋敷を駆けて行き、陛下の元へとあっという間についた。陛下の周りには数人の老人がいて、わたしに気付くと怪訝そうに表情を歪めた。昨日の謁見室にはいなかった人たちだ。


「陛下、失礼します」

「……入ってから言うか? それと、なぜアクアを抱いている」

「急いでいたもので……。慣れないハイヒールでは走れないだろうと思い、抱き上げました」


 真面目な声でなにを言っているんだ、この人たちは……。とわたしがちょっと遠い目をしたら、老人のひとりが声を荒げた。


「陛下の前でなんという無礼なことを! 陛下、この者たちをつまみ出してもよろしいですか?」

「それはダメだ。……アクア、聞いたのだろう?」


 わたしはディーンに下してもらってから、陛下へと顔を向けてうなずいた。


「――わたし、ダラム王国に向かいます」


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪

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