19話
「……ところで、ふたりは仕事しなくて良いの?」
「ある意味、今も仕事中」
「私と居ることが?」
「そう。ほら、屋敷に行くなら護衛をって言われたじゃん。あれ、俺たちのことだから」
思わず咳き込んだ。ゲホゴホと咳き込むと、ディーンが心配そうにわたしの背中を擦ってくれた。大分楽になってからわたしは思わず叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待って、なんでそうなるの!?」
「助けられたの、オレだし……」
「……近くにいたら巻き込まれた」
「いやいやいや! そもそもディーンって隊長なんでしょ!?」
「まぁね。でもアクアの護衛のほうが給料いいんだよね」
給料で選ぶのか! ……………………いや、それは普通のことじゃないか……? ダメだ、わたし……普通がわからないっ。
「それと、アクアが屋敷を選ぶなら、そっちに住み込みもオッケーだって」
「……公爵家はどうするのよ……」
「なんとかなるって、あはは」
笑い事か、笑い事なのか……! ディーンってなんだか……こう、思っている以上に天然さんなのかもしれない……! わたしの中でディーンは天然な性格と位置づけて、ちらりとバーナードを見る。お茶を飲んでいる姿は確かに貴族のように優雅だ。……いや、貴族なんだけど。ディーンの言葉に顔色ひとつ変えずにお茶を飲んでいるから、思わずわたしから尋ねた。
「あなたはそれでいいの?」
「いいもなにも……王命だし。帝国騎士団としては陛下の命令は絶対だし……給料いいし」
「……やっぱりそこか、そこなのか……!」
確かに給料が高くなるのはいいよね……! 一体どれだけの給料を出すと言われたのか気になるところ……って、そうじゃなくてね!
ふたりとも、結構乗り気に見えるのはどうしてなの……! そんなに破格の給料が提案されたのだろうか……。
「……大体、そのお屋敷ってどこにあるのよ……。むしろわたしはどうすれば安全なわけ……?」
毒殺はされたくないし……。大人しくしていれば狙われないかな……? ディーンとバーナードは互いに視線を交わして、それからディーンは「あとで行ってみる?」と聞いてくれた。
……確かに、一度見ておいた方が良いかもしれない。どんなお屋敷なのかを……。……っていうか、多分ディーンの中ではわたしが公爵家のメイドに戻るって選択肢は消されているよね?
「今日は陛下との食事があるから……、行くなら明日かな?」
「……そうだ、陛下との食事が待っていた……!」
忘れていたわけではないけれど……。今日は本当に情報量が多いわ。……陛下との食事か……わたしに一体どんな用事だろう……?
おばあちゃんっ子だったみたいだけど……わたしが知っているのはダラム王国にまで聞こえてきた彼女の名声くらいだ。
大聖女ステラ。人間離れした神力を持ち、アルストル帝国を守護した人。女神の生まれ変わりなんじゃないかってくらい、ものすごい神力を持っていたらしい。ダラム王国でも、吟遊詩人が彼女の奇跡を歌にしていた。
手足がもげた人も完璧に治した回復魔法、疫病を払う儀式、大聖女の祝福を受けた人は必ず成功する……などなど。そんな彼女にも、出来ないことがあった。それが死者蘇生。
死には誰も逆らえない。それに逆らうのは神への冒涜だと言われている。
……そもそも蘇っても怖いよね。神官長が教えてくれたけど、万が一生き返ってもすぐに動かなくなり、魂が抜けた肉体は魂を求めて近くの人を襲うらしい……! イヤだ、絶対死者蘇生なんて考えない……! と神官長と約束したのだ。……思えばわたしのおばけ嫌いの原因は、神官長の話が怖かったからでは……?
まぁ、だからこそ、わたしは自分に誓ったのだ。目の前に居る人たちが瀕死状態でも生きているのなら、絶対に助けると……!
「……そういえば、大聖女ステラの似顔絵とかないの? えっと、肖像画っていうんだっけ?」
「あるけど……」
「あー……うん、神殿だな」
……あまり行きたくないから、却下で。
全員ケーキも食べ終わり、お茶も飲み終わり、ディーンは「まだ食事の時間まであるし、アクアの荷物を持ってくるよ」と公爵邸に向かった。
残されたわたしとバーナードは、なにも話すことがなく……ただただ沈黙が広がった。……なにか共通の話題がないものか、と考えていると、ふと閃いた。
「ディーンとバーナードって幼馴染なのよね」
「そうだが?」
「……ディーンって昔から、ああなの?」
「……そうだ。小さい頃からなにかを拾う癖がついていて、抜けない」
「……悪かったわね、拾われて」
……その前にわたし、ディーンの命の恩人なのだけど……? 一応。今でも鮮明に思い出せるわ。あの時のディーンの怪我の様子。
「……瘴気の森で、どうしてディーンだけ残されていたの?」
「……規格外の魔物が出て、隊長が囮になるから隊員たちは先に逃げろ、と」
……隊長自ら囮になるなんて……。それに、規格外の魔物ってどんな魔物なのだろうと首を傾げる。ディーンの怪我……あれは多分鋭利な爪で斬られたような……そんな感じの傷だった。まぁ、このわたしが治したから、傷跡は残っていない、はず!
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