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148話


 椅子に座り直してから、アルマはお茶を一口飲んで顔を上げた。その表情は少し楽しそうだった。


「こういってはアレかもしれませんけれど、爵位に関してはあまり気にしていないのです」

「爵位を気にしてない?」


 どういう意味だろうと同じことを繰り返す。アルマは短く「はい」と返事をしてから、ピッと人差し指を立てた。


「うちの爵位は魔物を倒したことで得た爵位です。生粋の貴族だったわけではありません。なので、執着していないのです。まあ、授かったからにはありがたく恩恵を受け取り、利益を国に返そうという感じですね」

「……ずいぶんアッサリしているのね……」


 確かにマクファーソン家の人たちは、国に利益を与えてくれているけど……。あの場所にある村って、かなり重要な気がするのよね。ダラム王国の国境に近かったし(おっと、元ダラム王国だ)。


「ちなみにその爵位を授けたのは?」

「先代、と耳にしております」

「……ステラの息子、かぁ……」


 ほとんど覚えていない。たまーに会ったことはあるような気がする。ただ、これは本当にわたしの記憶なんだろうか? だって覚えがない記憶まで夢で見るのよ? わたしが作り上げた記憶なんじゃないかと疑ってしまう。


「アクアさま?」

「――ま、悩んでも仕方ないよね」

「え?」

「ごめん、こっちの話。あ、それでさ、この屋敷ではシオンも自由に過ごしてもらっていいからね」


 シオンに話しかけるように視線を向けると、シオンは嬉しそうに跳ねた。意志疎通は問題なく出来そうだし、屋敷が賑やかになりそう。


「メイド長のセシリーは、なんかいっていた?」

「誠心誠意、アクアさまにお仕えするように、と」


 セシリーらしい。それだけわたしのことを『主人』として認めてくれているのだろう。


「そっか。ええと、じゃあ。よろしくね?」

「はい、アクアさま!」


 彼女の眩しい笑みを眺めながら、わたしはお茶を飲んだ。


 シオンもぴょんぴょんと小さく跳ねている。


「アクアさまを、精一杯お守りします!」


 アルマが意気込むようにぐっと拳を握った。わたしは眉を下げて、それから肩をすくめる。彼女の気持ちは嬉しいけれど……。


「わたしね、結構強いほうだと思うの」

「アクアさま……?」


 不思議そうに目を(またた)かせるアルマに、視線を落とす。くるくるとカップの縁を中指でなぞり、ぎゅっと口を結ぶ。それから、真剣な表情を浮かべてアルマを見た。


「――自分の身を守れるくらいには、強いのよ、わたし。だから、アルマにひとつお願いしたいことがあるの」

「お願いしたいこと、ですか?」

「ええ。――絶対に、無理はしないって。自分の身を守ってね」


 ――もう誰も、傷つくところを見たくない。


 それが私のワガママだって、知っている。それでも、祈りたくなるの。


 もう二度と、あんな思いをしたくない、と――……。


 そして、神官長たちのおかげでわたしの魔法はそこそこ、実戦向きだ。神さまに祈れば、拘束だって出来る。そう、そこそこに、わたしは強いのだ。土魔法以外は。


「わたしが一番得意なのは回復魔法や浄化だけど、土以外の属性の魔法もそれなりに使えるの。自分の身が危ないと思ったら、迷うことなく自分を守って? わたしには神さまもついているし、ディーンやバーナードだって護衛としていてくれるから」


 ディーンとバーナードは、わたしがこの国に来てからずっとの付き合いだから、なんとなく一緒にいると気が楽だ。彼らと似たような関係を築けたら嬉しい。わたしの中では、ディーンもバーナードも『友達』の位置にいるし。……今のところ、バーナードもその位置でいいと思っている。彼との今後を考えるには、まだまだ時間が必要だ。


 ――それに、わたしが狙われているのなら、わたしに近しい人たちだって狙われる可能性がある。


 この屋敷の人たちだって、危険と隣り合わせだろう。そのことがものすごく申し訳ない……。わたしについて来たばかりに……。


「……アクアさまは、護衛の命も大事に思っているのですね」

「そりゃあ、そうよ。命はひとつしかないのだから」


 トン、と自分の胸元を叩く。一度しかない人生だから、わたしはわたしのまま、後悔しない生き方をしたい。


「……なるほど」


 納得したようにうなずくアルマに首を傾げた。


「では、魔物の命はどう思いますか?」

「え? 魔物の命?」


 予想外の質問をされて、少し驚いた。腕を組んでうーん、と唸る。


「人間の都合で申し訳ないけれど」


 そう前置きして言葉を紡ぐ。


「人に危害があるのはダメね。魔物の命もひとつだろうけれど、どちらかを取るかと聞かれたら、わたしは迷うことなく人間側を選ぶと思う」


 魔物が人間を襲っていたのなら、魔物を倒す。人間と魔物、普通に考えれば魔物のほうが強いから、人間は襲われたら……。


「……ただ、人間と共存したいという魔物がいるのなら、受け入れるべきだとも思う。いろいろ難しそうだけど」


 なにせ人間と魔物では考え方も違うだろうし、言葉だって通じるかどうか怪しい。コボルトのように意思疎通が出来る魔物は、本当に珍しいんじゃないかなぁ?


誤字報告ありがとうございます、助かります!

時間のある時に直したいと思います~。


この小説ではないのですが……、

アルファポリスレジーナブックス様にて、私の書いた小説が書籍化されます!

活動報告に詳細や書影がありますので、よろしければ見てください(*´▽`*)


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪

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