144話
目を閉じると、さっきのことがぐるぐると頭の中で回る。どうしてあんな爆発が起こったのか、さっぱりわからない。
ルーカス兄さまが調べてくれるだろうけれど、なんだか……ね。
――ダメだ、やっぱりくらくらする。
倒れるほど魔法も使っていないと思うんだけどなぁ……。
ぼんやりそんなことを考えていると、急に眠くなってきた。抗うことをせずに、睡魔に身を任せる。
今は、しっかりと休んでおきたい――……。
☆☆☆
『本当に良いの?』
『ええ。私の祝福を、この子に』
……これは、わたしの夢? 大聖女ステラと……お母さまが話しているようだ。お母さま、お腹が大きいわ。きっと、わたしが宿っているのだろう。
ステラが愛おしそうにお母さまのお腹を撫でる。
そして、ぽうっとステラの手から淡い光が見えた。
『この子の名前はもう決めたの? 性別は?』
『女の子らしいわ。名前はね、夫と話し合って決めたの』
『セカンドネームは?』
『まだよ。……なにか、つけて欲しい名前でもあるの?』
お母さまが小首を傾げてステラに問う。ステラは小さくうなずいた。そして、『アンジェリカ』と名前を口にする。
『アンジェリカ?』
『そうよ。……私の、母の名なの』
意外そうに目を丸くするお母さまと、それを見てステラはにっこりと微笑んだ。
『お母さまからそういう話を聞くのは、初めてかも』
『話していなかったからね』
興味深そうなお母さまに対して、ステラはぽんとお母さまの頭に手を乗せるとくしゃりと撫でた。
『シャーリー。あなたは今、幸せ?』
『もちろんよ。優しい夫がいて、お腹にはその人の子どもも宿っているのよ? 使用人たちも明るくていい人たちばかり! これで幸せじゃないなんて、口が裂けてもいえないわ!』
お母さまの明るい声に、ステラは嬉しそうだった。そして、ぎゅっとお母さまを抱きしめる。
『――覚えていて。あなたの子はきっと、大きな力を持って生まれるわ』
『大きな力?』
『そう。私よりも強い神力を持っているのは間違いないわ』
『どうしてそんなことがわかるの?』
『――神のお告げ、よ』
くすりと微笑むステラに、お母さまはキョトンとした表情を浮かべた。
……神のお告げ?
わたしがステラよりも強い神力を持っている?
『神さまって、そんなこともわかるの?』
『ふふ。それともうひとつ、面白いお告げがあってね――』
お母さまの耳元にこそこそと呟くステラ。聞こえなかった。
『えええっ? そんなことあるの!?』
お母さまの大きな声に、どれだけ予想外のことをいわれたんだろうと首を傾げた。
『うっ』
『シャーリー?』
『び、びっくり、しすぎて……お腹が……!』
『大変っ、すぐにみんなを呼んで来るわね』
ステラが慌てたようにバタバタと部屋から出て行く。お母さまはお腹を擦りながら、汗を滲ませていた。
『――これも、運命なのかしら……? リネット、どうか、どうか――』
☆☆☆
ハッと、目が覚めた。
目を開けると真っ暗だった。どうやらもう夜のようだ。むくりと起き上がってわたしはベッドを抜け出す。
くらくらは治っていて、代わりに頭痛でズキズキした。なんなのよ、今日は……。それに、さっきの夢はなに? わたしが生まれる前の記憶なの?
……いや待って、どうしてお腹の中にいる時の記憶があるの。おかしいでしょう、いろいろと。
わたしは首をゆっくりと横に振る。頭が痛くてなにも考えたくなかった。深く息を吐くと、扉がノックされる。
「はーい?」
「アクア? どうした、声に元気がないぞ」
返事だけでそれがわかるとか凄すぎないか、バーナード。聞こえてきた声は、バーナードのものだった。どうして彼は、わたしが弱っている時に来てくれるのか……。
「入っていいよ」
「……ああ」
ちょっとだけ間があった。バーナードは静かに扉を開けて中に入ってきた。
「……大丈夫か?」
「……どう見える?」
質問に質問を返すのもどうかと思ったけど、客観的に教えてくれるだろうという考えがあった。
「真っ青。病人っぽい」
バーナードはこういう時、嘘をいわない。わたしはペタペタと自分の顔に手を当てて、
「そっかぁ」と肩を落とした。
「ちょっとよくわかんない夢を見て、頭が痛くなったのよね」
「……ちょっと待ってろ」
バーナードはそういうとすぐに部屋から出て行った。そして、本当にちょっと待っていると、思っていた以上に早く戻ってきた。
「とりあえず、胃になにか入れとけ。あと、これ鎮痛剤」
「ありがとう」
バーナードが持って来たのは、野菜のスープと水、それと薬だった。
鎮痛剤なんて、この屋敷にあったのか……。
トレイを受け取ってスプーンを持ち、スープを掬う。柔らかく煮込まれた野菜は胃に優しい気がした。頭が痛くても、お腹は空いていたみたい。温かいスープを食べ終わる頃には、だいぶ身体が楽になった……ような気がする。
水を一口飲んでから、鎮痛剤を飲み込む。
バーナードはわたしを見ると、ベッドへ押し込んだ。
そして、労わるようにわたしの頭を撫でた。その撫で方がとても心地良くて、目を閉じる。
「――今は、ゆっくり休め」
「……うん……」
鎮痛剤を飲んだからかな。頭痛は少しずつ、引いていく。穏やかなバーナードの声に、わたしは目を閉じた。
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