表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/151

140話


 アルマの言葉に、私は目を大きく見開いた。


「じ、侍女?」

「はい。私はアクアさまのもとで働きたいのです」


 ちょっと頭が混乱してきた。


 どうしてわたしのもとで働きたいと思ったのだろう?


「文通をして、アクアさまの人柄がよくわかったつもりです。それに、アクアさまに女性の護衛が必要だとも思いました」


 女性の、護衛?


 ――って、まさか、アルマがその護衛になろうとしている!?


「ディーンさまやバーナードさまよりも弱いことは自覚しております。ですが、どうか、私を使っていただきたいのです」

「え、えええ……?」


 わたしは困惑した。


 そりゃあこんな提案されるとは思っていなかったからね!


 アルマの真剣な表情に、どう答えれば良いのかわからない。


 ……でも、きちんと彼女と向き合って、答えを出さなくては。


「……いつから、考えていたの?」

「アクアさまの手紙が二回目に届いたときには……」


 ってことは、結構前から考えていたってことだよね。


「アルマのご両親はそのことを……」

「存じております。両親からは、『あなたの好きなようになさい』と」


 良いのかマクファーソンのご両親!


 断る理由はないけれど、わたしは結構危険な立ち位置にいる、と思う。


「危ないことがあるかもしれないよ?」


 できるだけ、そういう危険からは遠ざけたいとは思う。でも、わたしの侍女ってことは、きっとずっと一緒にいるつもりなのだろう。


 ――巻き込むことになるのが、怖い。


「そのときは、必ずお守りします。……私たちで」

「え?」


 アルマの服から、ぴょこんとスライムが飛び出た。


 つるつるボディのスライム。マクファーソン家で見た魔物。一緒に来ていたんだ。


「……ん? たちっていった?」

「はい。私はこの子を従魔(テイム)にしました」


 あまり聞かない言葉を聞いてきょとんとした顔をすると、アルマは簡単に説明してくれた。


 魔物と契約を交わすことで、自分と一緒に戦ってくれるらしい。


 で、その契約を交わした魔物のことを従魔(テイム)と呼ぶそうだ。契約を交わした人間のことは魔物使い(テイマー)と呼ぶらしい。


 ……わたしたちとコボルトとは関係性が違うみたいね。


「そっかぁ……。はぐれスライムがアルマの仲間になったのね」

「はい」


 つるつるぷにぷにのスライムを愛しそうに撫でて、アルマは笑う。


「そして、出来ればアクアさまに真名(マナ)の誓いをしたいと考えております」

「ええっ!?」


 まさかアルマに真名の誓いといわれるとは思わなくて、大きな声を上げてしまった。


 同性同士の真名の誓い。


 それは決して裏切りませんというか……親友になりましょう、って感じだったハズ……!


 わ、わたしとアルマが親友に?


「……ダメ、でしょうか……?」

「えっと、待って。混乱しているの。嬉しいけれど、真名の誓いはもうちょっとあとでもいいのでは……?」

「いえ、是非、いまここで。この神聖な場所で誓いたいと思い、ここまで来たのです」


 アルマはにっこりと微笑んでそういった。


 彼女は、どんな気持ちでここまで来たのだろう……?


「ええと……、わたしと親友になりたいって考えてくれたんだよね?」


 こくり、と彼女の首が動く。


「……嬉しいけれど、困惑が勝っているの。文通をして、アルマの人柄はわかっているつもりだけど、本当に()()()だから……。でも、ええと、本当にアルマがそれを望むのなら、――いいよ」


 ぱぁっとアルマの表情が明るくなった。心なしか、スライムも。ぴょんと跳ねて、着地する。弾力のある体がぷるるんと揺れた。


 ――どうやらスライムも一緒に真名の誓いをするみたいだ。


 アルマはわたしに向かい、カーテシーをした。


「アルマ・エメライン・サラ・マクファーソン。我が真名に掛けて、アクア・ルックスさまの良き友になることを誓います」


 それに同調するようにスライムが跳ねた。


「シオンもアクアさまのことが好きになったようです」

「……そっかぁ。よろしくね、シオン。そして、アルマ」

「はい」


 わたしはそっと手を差し出した。


 ぎゅっと握り返されて、ぴょんとスライム――シオンが跳ねて、わたしたちの手に乗った。ぷにぷにのボディはひんやりとしていて、心地よかった。


「それでは()()()()、アクアさまの侍女になりますね」

「今日から!?」


 もしかして、アルマが大きな荷物を持っているのは、そのためだったの? と目を丸くして驚いていると、アルマはくすくすと笑った。


 その姿を見て、まあいいか、なんて思っちゃったりもして。


「……でも、本当に良かったの?」

「はい。アクアさまのお役に立ちたくて、ここまで来たのですから。それに、……アクアさまなら、シオンを受け入れてくれるでしょう?」


 スライムがじっとこっちを見ている……気がする。


「……受け入れるというか、敵意がないなら魔物とも戦う理由はないし……」


 人間を襲う魔物たちは瘴気を(まと)っている。


 見ればすぐにわかるほどに。


 でも、このスライムにも、コボルトたちにもそれは見えない。


 ――人間を襲う魔物と、共存を求める魔物の違いって、なんだろう……?


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ